ほろ酔い

清少納言は「春はあけぼの」が良いと言うけれど、私は春の宵が好きだ。まだ明るさの残る淡いグレーの空の頃が。 桜の花びらと一緒に吹いてくる風に吹かれていると、心が高揚してくる気がする。 


先日、用があって出かけた。用事を済ませるとちょうどこの宵の頃だった。少し肌寒かったが春風に吹かれて、ちょっと寄り道でもしようと通りを歩いた。 


エスニック料理が食べたかったし、ちょっとお酒も飲みたかった。軽いお酒ではなく「ちょっと強いお酒」を。ふらりと入ったのはバリ料理店だった。一人だったのでカウンターに案内された。アラックというバリ焼酎を飲んで、常連客と店の女主人の会話を聞くともなく聞いていた。 


なんだかとても快く、お酒も進んで2杯目のアラックを注文した頃には、私も時々会話に加わっていた。 カウンターには数人の仕事帰りの男性がいて、どの人も常連らしかった。髪型、持ち物、話し方に自分のこだわりが感じられる人がいた。こだわりの強い私は「その人」が気になった。 


「その人」とも時々言葉を交わしながら、私は自分が「ほろ酔い」になっているのに気が付いた。店に入ってずいぶん時間が過ぎていた。 待ち合わせの時間つぶしに店に寄ったらしい「その人」は、約束の時間が近づいたのか、店の人にあいさつをして、席を立った。


それから私の方を向き、「おやすみ」と声を掛けて帰って行った。 私もバリコーヒーを飲んで店を出た。満開の桜の中をしばらく歩いた。とても快く気分が高揚していた。 どこまでもどこまでも歩いていたい快さだった。


春の宵は人をほろ酔いにさせるのかも知れないと私は思った。


 

 

  

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