1章3項

(3)音楽は聞くのが専門という制限を外したら人前で歌唱を披露できた

 

<ピアノへの憧れ>

 

あなたは音楽が好きですか?

ピアノやギター等、

楽器を演奏されますか?

幼い頃の私は、レコード(まだCDが

なかったので)を聞いて歌ったり、

子ども用の卓上ピアノをでたらめに

弾いて歌ったりするのが好きでした。

 

小学校の低学年のときの先生は

ピアノが得意で、私は音楽の時間が

とても楽しみでした。一度、先生が

音楽の時間に「エリーゼのために」を

弾いて下さったことがありました。

「世の中にこんなに美しい音が

あるんだ~」と感動したことを

今も微かに覚えています。

 

ピアノを習うことが、

当時の私の密かな願いでした。

 

 

<叶えられなかった幼い願い>

 

でも残念ながら、「お金がないから」

「家が狭くてピアノを置く場所がない」

等の理由で、幼い私はピアノを

習えませんでした。私はあまりものを

ねだらない子どもでしたが、

ピアノだけは、「習いたい」

としつこくねだりました。

でも、ピアノを習いたいという願いは、

叶えられませんでした。

 

中学生になった頃、

フォークギターが流行り、近所に

音楽教室が出来ました。

「音楽教室でギターをならわないか?」

と友だちが誘ってくれましたが、

その時も経済的理由で習わせて

もらえませんでした。中学校の吹奏楽部や

合唱部に入部しましたが、活動は

全然活発ではなく、

廃部になってしまいました。

 

もうその頃には、楽器を演奏することや

歌を習うことはすっかり諦めて

本ばかり読むようになっていました。

 

「音楽は聞くのが専門!

楽器を演奏しようなんて今更遅いし

上手になれるわけもない」

と思い込んでいました。

まだ10代だったというのに!

 

 

<57才でボイストレーニングを始める!>

 

「音楽は聞くのが専門」だと諦めてから

40年近い歳月が流れました。

私が57才になった年の夏、

思い切ってボイストレーニングに

通うことを決めました。

 

意外にもキッカケは単純なことでした。

一人カラオケに行くようになって、

「歌うことが楽しい!」

「もっと上手になりたい!」

と感じるようになったからです。

 

偶然、近所にミュージックスクールが

あることを知り、

体験レッスンの申し込みをしました。

でも、ボイストレーニングなんて、

プロの歌手になりたい人が受けるものだ

と思っていたので、

本当に恐る恐る申し込んだのでした。

 

ところが申し込みをして事情を話すと、

スクール全体の8割の人が

私のような人だと知りました。

 

 

<練習して訓練すれば変わりますよ>

 

楽器も演奏できなければ、

音符も読めない。リズム感もなければ、

声も出ない…と、自発的に音楽を

楽しむことをすっかり諦めていた私は、

音楽を主体的に楽しむことに

ネガティブな思いがあることを先生に

お話しました。

 

すると、先生は

「練習して訓練すれば変わりますよ」

とあっさり言われたのでした。

 

 

<歌うのが楽しい!>

 

体験レッスンではまず、

いつもカラオケで歌っている

竹内まりやの『駅』を歌いました。

先生が私の声、音域、音程などを

チェックして下さいました。

「私は高い声がでない」

と思っていたのですが、

意外にも先生が

アドバイスして下さったのは

「もう少し高い声で歌った方が良い」

ということでした!

 

次は先生のギターに合わせて

少し高くして歌ってみました。

高い声で歌うと、不思議と喉が

解放されたような気がしました。

その後、高くした音で

何度かサビの部分を歌いました。

楽しくて45分の体験レッスンは

すぐに終わりました。

思い込みとは恐ろしいものだと、

このとき思い知りました。

 

体験レッスンで一番嬉しかったことは、

一人カラオケで歌っている時より、

ずっとずっと歌うことを楽しめたことでした。

音楽を自発的に楽しむチャンスを

つかめたこと、ネガティブな思い込みを

手放せそうなこと、

歌うことを楽しめそうなこと、

いろいろな気づきがありました。

 

音楽は「音を楽しむ」と書きますよね。

自発的・能動的に音楽を楽しむ一歩を

踏み出したと私は感じたのでした。

 

 

<音楽フェスタにも初出演>

 

私は体験レッスンの後、すぐに

ミュージックスクールに入会しました。

それから半年が過ぎる頃には、

「人生を楽しくする秘訣は、

主体的に音楽に関わることだ」

と感じるようになっていました。

主体的に関わるとは、

ただ聞くだけではなく、

楽器を演奏するとか

歌を歌うというように

自分が発信する側になるということです。

 

「歌うことはこんなに楽しいんだ~!」

レッスンのたびにそう感じ、

私は、自分が上達し、

声が響くようになるのを感じました。

大げさに聞こえるかも知れませんが、

人生の楽しみの扉を開いた気分でした。

 

そんなある日、

通っている心療内科のデイケアで

音楽フェスタがあることを知りました。

自分でも驚くような行動力で

フェスタ出演申し込みをしました。

そしてもっと驚いたことに、

ギターの上手いデイケア仲間Yさんに

伴奏をお願いしていました。

実はその時、私はYさんの顔は

知っていましたが、

名前すら知りませんでした。

 

 

<音楽を通した友だちができた>

 

Yさんは快く引き受けて下さって、

その場で私はフェスタで歌うことにしていた

「いい日旅立ち」を歌いました。

生のギター伴奏で歌うのは初めてでした。

「めちゃくちゃ気持ちいい!」

というのが実感でした。

 

その後、ベースの上手い

デイケア仲間Nさんも伴奏して

くださることになりました。

一度、ドラムの上手いMさんも

伴奏に参加して下さったことがありました。

それぞれの楽器の響きをガンガンに

感じました。もう最高にいい気分でした。

それまで言葉でだけ知っていた

「共鳴」を体感した気分でした。

 

音楽フェスタでは、学生時代の

学習発表会や文化祭でも

端の方にいた私が、ギターとベースの

友人に伴奏してもらい

「いい日旅立ち」をソロで歌いました。

緊張はしましたが、練習を重ねていたし、

「気持ちよく歌って下さい。

歌に合わせて伴奏しますから」

と言ってもらっていたこともあって

安心して歌うことができました。

「私の人生捨てたもんやないな~!」

と思いました。

 

 

<人生を楽しむ鍵は主体的に音楽に関わること>

 

音楽はずっと

「聞くのが専門」だった私が、

思いがけず57才にして、

はじめて聞かせる側になりました。

音楽に主体的に関わることは、

人生を楽しむコツのひとつだと、

今は思います。

 

私が通っているクリニックの院長先生は、

クリニックの音楽フェスタで素敵な

ギター演奏や歌を披露して下さいます。

院長先生に私がボイストレーニングから

感じたことを本に書くことをお話すると、

「久夢さん、

僕がギターを始めたのは56歳からだよ。

今から始めても遅くないと

久夢さんの本に書いて」

と言われました。

 

そうなんです、「遅くない」んです。

音楽だけでなく、美術でも、文学でも、

人生を楽しむことを始めるのに

年齢は関係ありません。

 

*ミュージックスクールのLIVE出演

 

 

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