誰かが約束を破った時、抗議して約束を果たしてもらう。約束が実行されないときは、責任を取ってもらう。
そして、その人とは、距離を置く、あるいはその人とつきあうのを止める。約束が反故になったことは腹立たしく残念ですが、割り切れる場合はまだマシなように思います。
約束を破った相手が、信じていた人、大切な人の場合は、約束を破ったこと自体よりむしろ、信頼関係を裏切った人への不信が辛いように感じるのです。
<タバコを吸っていた少女>
教師だった頃、私はAちゃんという賢く愛らしい少女を担任していました。Aちゃんは中学生の少女には重すぎるような難しい家庭の事情を抱えていました。
Aちゃんは高い能力を持ちながら、なかなかその力を発揮できず、問題行動を繰り返す生徒のグループと関わっていました。Aちゃんは目立った問題行動は起こさないけれど、陰で煙草を常用しているともっぱらの噂でした。
<もうタバコは吸わない>
私がまだ若かったからか、Aちゃんは担任になった私に少しずつ家庭の事情や自分の辛い思いを話してくれるようになりました。私とAちゃんは本当によく話しをしました。一緒に勉強もしました。
ある時、Aちゃんは煙草を吸っていたことを認めて、「もう煙草は吸わない」と私に約束してくれました。
Aちゃんの表情が少しずつ明るくなり、定期テストの点数も上がり始めた矢先、Aちゃんは数人の男子生徒と煙草を吸っているところを見つかり補導されたのでした。
<口紅のついたタバコ>
連絡を受けてそこに行くと、「村川先生、私、吸っていません!お願い信じて!」とAちゃんが悲壮な表情で私に訴えかけたのでした。
職員室に帰ると、生活指導係の同僚に「煙草の吸い殻のなかに、口紅がついた吸い殻が混じっていましたよ。Aが吸ったんですよ。村川先生が甘いからAがつけあがるのですよ!もっとしっかり指導して下さい」と厳しく注意されました。
生活指導係の先生の指導で、Aちゃんも含めて全員の生徒が煙草を吸っていたことを認めたのです。
私はAちゃんが煙草を吸った事実より、「煙草は吸わない」と言う私との約束を破ったこと、そして「煙草は吸っていない。村川先生、信じて!」とAちゃん嘘をついたことの方がショックでした。
<騙したんじゃない>
落ち込んでいる私を見かねたのか、年上の女性教諭が、「村川先生には煙草を吸っていないと信じて欲しいAちゃん、いじらしいじゃないですか。彼女の気持ちをわかってあげましょうよ」と言われたのです。
煙草は依存性があるようです。どうしても吸いたくなる時もあるでしょう。思春期の問題を抱えた子どものグループでみんなが煙草を吸っている時には、Aちゃんの立場もあったでしょう。
Aちゃんが一人で居る教室に行くと、「村川先生、約束を破ってごめん。でも、先生を騙そうとかと違う!村川先生のことを好きだから。私、そんなことしない」としょんぼり彼女がそう言いました。
Aちゃんが裏切ったと言って怒った方が、私の気持ちは楽だったかも知れません。でも、「甘く見られている」「騙されている」と批判されても、私はAちゃんを信じようと思ったのでした。
<信じて待つ>
あれから数十年経って、私はアドバイスしてくれた年上の同僚の年代になりました。そして、教職を離れて10年経ちました。
教師を辞めた今でも「信じることは難しいな」と感じることがしばしばあります。約束を違えた人を「そういう人だったのだ」「縁がなかった」と割り切ってつき合いを止められるなら、まだ気持ちは楽です。
でも、自分が信じようと思った人、大切な人ならば、たとえ約束を破っても、その時の自分に出来ることをして、あとは信じて待とうと思うようになりました。 約束そのものよりも信じて待つことを大切にしたいのです。
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