【エッセイ】絶品の朝ごはん～祖母の笑顔と卵かけご飯～

　

　

＜お茶漬けの朝ごはん＞

「京都の朝は、あっさりのお茶漬けや！」私が幼い頃、同居していた父方の祖母はこう言い張って、絶対に譲りませんでした。わが家の朝ごはんは、ご飯と漬物とお茶、つまりお茶づけだけでした。他の副菜は一切ないのです。

　　

「お祖母ちゃん、たまごのごはん（卵かけご飯）して～」

「お祖母ちゃん、お味噌汁たいて～」

「お祖母ちゃん、昨日のおかずの残り食べよ～」

　　

などと言おうものなら、「朝から口卑しい！」と祖母はカンカンになって怒ったものです。彼女にとっては、質素倹約は美徳、清貧に甘んじるのが庶民の定めと固く信じていました。昔の話とは言え、父方の祖母は少々時代錯誤でした。

　　

そんなこともあってか、子どもの頃、母方の祖父母の家で頂く朝ごはんが、本当に美味しくて楽しみでした。

　　　

＜干拓のおばあちゃんの家＞

母の実家は琵琶の干拓地にありました。干拓の祖父母の家の周りは、一面に水田が広がっていて、遠くに琵琶湖の松林を見渡すことができました。

　

夏休みに優しい「干拓のおばあちゃん」の家に行くのが当時の私にとっての一大イベントでした。「干拓おばあちゃん」が作ってくれる朝ごはんは、その一大イベントのなかでも絶対に欠かすことができないアイテムでした。

　　　　

＜すべて手作りだった＞

朝、目を覚ますと、台所から、ご飯や味噌汁の美味しそうな香りが漂っていました。祖母は、竃さん（へっついさん）で江州米を炊き、その日の朝、自分の畑で収穫した野菜で味噌汁を作ってくれました。

　　　

味噌も祖母が作った自慢の味噌でした。その他にも、糠漬けや粕漬けのお漬物、梅干し、らっきょう、生姜など、全て祖母の手作りでした。

　　　

＜卵かけご飯＞

でも、子どもだった私と弟にとっては、卵かけご飯が何よりの楽しみだったのです。

　

祖母は、私たちが卵かけご飯を楽しみにしていることをよく知っていました。なので朝早くから、知り合いの農家に行って、その家の中庭で飼われている鶏の卵を買って来てくれました。今で言う平飼い卵ですね。

　　

　

　

祖母が、お釜で炊いてくれたご飯は、ピカピカに光って、香りもよく、平飼い玉子は、黄身がぷっくりと盛り上がり、綺麗な色をしていました。少しお醤油を加えて、かき混ぜ、ご飯にかけて食べると、本当に絶品の美味しさでした。

　

　　

　　　

　

夢中で卵かけご飯を食べる私たちを、祖母が笑顔で見ていたのを覚えています。

　　　

＜祖母の笑顔と卵かけご飯＞

祖母が心を込めて作ってくれた朝ごはんに、特別なものはありませんでした。卵かけご飯と味噌汁以外は、漬物と保存食です。京都の家で毎日食べている朝ごはんとさして変わりはありません。

　

でも、祖母が早朝から買いに出かけてくれた平飼い卵、竃さんで炊いてくれたご飯は、「孫たちに好物を食べさせてやりたい」「孫たちの喜ぶ顔が見たい」という「干拓のおばあちゃん」の愛がたっぷり込められていました。

　

優しかった「干拓のおばあちゃん」が亡くなって40年近く経ちます。それでも祖母の笑顔と干拓で食べた卵かけご飯の美味しさは、今でもハッキリ覚えています。

　

　

　

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