掌編小説:言葉は嘘つき

先日、久しぶりに幼馴染と会った。彼女も一時は私と同じように、鬱に苦しんだことがある。久しぶりに会った彼女は、明るい色のスッキリしたスーツを着て、綺麗にお化粧をしていた。

 

<だから大丈夫!>

彼女は、鬱はすっかり良くなったこと、以前フルタイムで勤めていた職場にパートタイムで勤め始めたこと、趣味の絵画教室が楽しいこと、絵画教室の友だちと日帰り旅行に行ったこと等を楽しそうに話してくれた。

 

私はふんふんと聞きながら、彼女の頬がこわばっていることが気になり始めた。そう思うと 彼女の眉が、釣り上がり気味なのも気にかかる。笑顔も心なしか固く見える。

 

彼女はどこかぎこちない笑顔で、「だから大丈夫」「なので大丈夫」「私は大丈夫」と「大丈夫」を繰り返した。

 

 

<本当は・・・>

彼女がミルクティーに口をつけた時、「そうなのね、もう大丈夫なのはわかったよ。でも、大丈夫でなくなったら、いつでも言ってね」と私が言うと、彼女の頬が震え出した。眉もピクピクし始めた。みるみる目に涙が溢れた。

 

彼女は大粒の涙を流しながら、鬱はスッキリ治ったわけでなく、パートでも仕事に行くのが辛いこと、息子と娘の学費が高くついて夫の給料だけでは家計が厳しいこと、絵画教室は楽しいけれど、「仕事は出来なくても、絵画教室には行けるのね」と言って家族が理解してくれないこと、絵画教室友だちとの人間関係が案外と難しいこと等を息つく暇もないほどの勢いで話してくれた。

 

 

<言葉は嘘つき>

話し終わって一息つくと、彼女は「大丈夫」を繰り返していた時とは、全く違う柔らかい表情になっていた。

 

「あんたに本当のことを話せたら、とってもスッキリできた。ありがとうね」と言ってはにかんだように笑った。その笑顔は一緒にごっこ遊びをした頃の彼女の笑顔だった。

 

言葉は案外嘘つきだ。本当は辛くて苦しいのに、しばしば「大丈夫!」と言ってしまう。なかなか本心を語れないのだ。「大丈夫」という言葉は意外に曲者なのだ。言葉よりむしろ表情の方が真実を語れるのだなと、昔の面影濃い彼女の笑顔を見ながら、私は思った。

  

   

 

 

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