一度終わったと思った人生に、もう一度命を吹き込む。
それは、新しいことを始めるより、ずっと手間がかかる。
でも、手間ひまをかけて再生させたものには、深い味わいが宿る――。
祖母の着物を「しまつ」したことから、私は自分の人生を「しまつ」できることを学びました。

◆京ことば「しまつ」は、ただの節約ではない
京都人が大切にしてきた「しまつ」ということば。「しまつせなあかん」と言えば、節約や倹約の意味で使われることが多いかもしれません。
でも、本来の「しまつ」とは、使えなくなったものに、もう一度手をかけて再び生かすという、再生の哲学なのです。

ただ倹約するのではなく、「あとしまつ」をしながら命をつなぐ――そこには、京都人ならではの価値観が息づいています。
◆祖母の銘仙と「帯に短し襷に長し」
私が「しまつ」の意味を実感したのは、祖母から譲られた銘仙の着物がきっかけでした。
臙脂(えんじ)と紫と青のストライプ模様。私はその布の色合いとすっきりした柄が大好きでした。
ところが、小柄な祖母の着物は、丈が中途半端で、おはしょりを作るには短すぎ、対丈で着るには長すぎるという「帯に短し襷に長し」の状態だったのです。
着られない。でも捨てるには忍びない。そんな思いで、私はその着物をクローゼットの奥にしまい込んでいました。
◆友人の手と「しまつ」の決意
ある日思い出したのが、古い和布を愛し、ソーイングカフェを営んでいる京女の友人でした。
彼女に相談すると、「この着物、ノースリーブのワンピースにしたら?」と。
そして彼女は言ったのです――「これが、ほんまの『しまつ』やな」と。
◆解いて、洗って、干して、またアイロン
着物をほどいて、縫える状態にするまでの手間は、私の予想をはるかに超えていました。
着物をほどく。祖母は細かくかっちり縫っていたので、ほどくのは本当に大変でした。
折りジワをアイロンでプレスするように丁寧に伸ばす。それでも長い歳月を経た布ジワはなかなか取れないのです。
絹用洗剤を使って弱水流で洗い、ぽたぽた水が垂れる状態で絞らず干す。
乾いたら、もう一度アイロンをかける。
古布を扱うというのは、着物を縫った祖母や経た歳月と対話するような作業でした。
私は、その手間が新たに命を吹き込み、祖母の銘仙着物を再生させる尊い儀式のように感じたのです。

でも、それが「しまつ」の本当の意味なのでしょう。「後しまつ」をして、新たに魂を吹き込み、再生させる手間なのだと、ひしひしと感じました。
◆再生された着物、よみがえった記憶
やがて完成したノースリーブのワンピースは、祖母の着物の風合いと歳月の重みがそのまま生きた、たった一つの服になりました。

余った布で作ったバッグや手帳カバーも、それぞれが違う命を宿したのです。


私はただ布を再利用したのではなく、祖母の記憶や祖母の着物への愛着を一緒に「しまつ」していたのです。
◆私自身の人生にも「しまつ」を
中途半端で着られなくなった銘仙着物を「しまつ」することに私は熱中しました。まるで自分の人生を「しまつ」するように。
うつ病を患い、教師の職務をまっとうできなくなった私。私も人生に「しまつ」が必要なのだと、銘仙着物の「しまつ」が教えてくれたのです。
「私には何の価値もなくなったのだ……」という思い込みを一つひとつほどいて、
自分の心にアイロンをかけて「もうだめだ」というシワを取り、型紙を取ることで、新しい人生設計を描き直す。
それはまるで、「教師をやめても、私が無価値になったわけではない」と魂を吹き込み、人生を再生させる作業でした。

一度終わったと諦めた人生を、もう一度生かす。それは手間も時間もかかるけれど、想像以上に豊かな経験でした。
◆「しまつ」は生き抜くための知恵
「しまつ」の本質は命のあとしまつ。終わらせるのではなく、もう一度生かすために、手をかけることです。
京都の人々は、戦乱や災害に幾度も見舞われながら、今あるものを工夫して再生し、暮らしをつないできました。
この考え方は、現代の私たちにも通じる、生き抜くための知恵だと思います。
「しまつ」は、人生のどこかで立ち止まったあなたにも、もう一度歩き出すきっかけになるかもしれません。

この「しまつ」の精神については、拙著 『ああ、京都人~今を生き抜く知恵おしえます!~』 にも詳しく綴っています。
今あるものを見つめ直し、再び命を吹き込むことで、人生は何度でもよみがえる――。そんな京都人の知恵と暮らしの哲学を、ご覧いただけたらうれしいです。

村川久夢(むらかわ・くむ)
京都生まれ京都育ちのセラピスト作家。
京ことば、京都人の暮らし、「書いて癒やし、書いて生き直す」をテーマに日々綴っています。
( 祖母の着物を「しまつ」したら、私の人生もよみがえった~京ことばに宿る再生の知恵:村川久夢)

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