<学生時代に出会った谷川俊太郎の詩『今』>
『今』 谷川俊太郎
夏はもう本当に去ってしまったのだろうか
私には信じられないことばかりだ
夢は死にしかしやがて思い出の中でよみがえるだろう
そして私は待つことだけを生きなければならない
谷川俊太郎さんの訃報に接して、この詩のことを思い出しました。この詩を初めて知った時は、教員採用試験に向けて、大学の図書館で勉強していたので、大学4年生、21歳頃だったように思います。
最初、詩のタイトルを思い出せず、当時、英文法の復習に使っていた『試験に出る英文法』の白紙ページに下手な字でこの詩を書き写したことを思い出しました。木漏れ日が射し込む図書館で、この問題集を開くたびに、万年筆で書き写したこの詩を読み返したものでした。
「夏はもう本当に去ってしまったのだろうか」
詩の最初の一行で、当時の私は、この詩に惹きつけられたのでした。奇しくも『今』には「二十一、二歳のころに書いた詩」と書かれていました。
あの頃の私にとって、この詩の「夏」は「学生時代」や「青春時代」を思わせました。学生時代を終えて、世知辛い社会に出ていく私。それは本当に信じられないことばかりでした。
私は英文科の学生で、英語教師を目指していましたが、私の「夢」は小説を書くことだったのです。生きていくために教師を目指して勉強しているけれど、私は自分の夢が死んでいくのを感じていたのです。
この詩は、一瞬で私を大学時代に引き戻したのです。思い出すと、青臭い自分が恥ずかしく感じます。あなたにも思い出すのが照れくさい「青臭いあなた」を思い出させる谷川俊太郎さんの詩はありませんか?
<『今』が教える「時」に向き合う力>
何十年ぶりかで、『今』を読み返すと、初めて読んだ時とは違った感銘を受けました。この詩は、「今を生きる」を象徴していると感じたのです。
しかしあの弱々しい未来に向かって
私は何を待つことが出来るだろう
過ぎ去ったものこそ確かなものだ
それらの上で私は長い間泣き続けている
すべてが時に蝕まれる
やがて最も強い愛さえも
絶え間なく時は私の今を奪い
私は常に新しく信じ直さねばならぬ
「過ぎ去ったもの」は、過去から延々と積み重ねられた因習や常識、社会そのものだったのです。「『時』に蝕まれても、奪われても、生きていかなければならない」と必死で決意していた弱々しく傷つきやすかった私が思い出されます。
あなたにとっての「過ぎ去ったもの」は何でしょうか? それは、もしかしたら思い出の中でしか触れることのできない大切な時間かもしれません。この詩は、そんな記憶に寄り添いながらも、私たちを「今」へと引き戻してくれるのです。
私は決して所を去らない
私は常に時を去る
ふたたびと云えない今を生き
そして私の心と体の限りそれを満たそうと
英語教師として働いた26年間、鬱との長い共生、突然の夫の死、「小説を書きたい! 作家になりたい!」と心の底でもがきながらも、私は「ふたたびと云えない今を生き」「そして私の心と体の限りそれを満たそうと」しました。
まさしく私は「今」を生きているのです。
初めて読んだ時、私は学生時代の終わる21歳を生きていました。改めて読み返した今は、夢だった作家として活動する63歳を生きているのです。
詩が訴えかけるのは「今を生きる」。それは、どの時代にも変わらず、人の心に響くテーマです。
<あなたも「今」を生きていますか?>
私は今、老化現象が顕著になる60代を、書くことに夢中で生きています。「こんなに夢中で書いた先に何があるのか?」と疑問に感じることもあるのです。この詩は、人生の先達が私に残してくれたことばのように感じます。
やがて過去を死に未来を死に
そしてすべてを予感してしまう時にも
私の生が私の今に支えられてあるように
私が常に新しく愛することの出来るように
過去も未来も、私の生は、今を生きる私が支えているのです。遠い過去になった学生時代の終わりも、夢中で書いている先にある未来も。
あなたが何歳であっても、「今を生きる」ことの重みを感じられるのではありませんか? 忙しい日常の中で、つい未来や過去に心が向きがちですが、この詩を読むと、立ち止まって「今」を見つめる大切さを思い出します。
今日、例えば散歩をして見る「今」の空。口に含んだお茶の味わいを感じる「今」。それだけでも「今」を生きる喜びを再確認できるかもしれません。
死を予感するときでも、「今」を生きることの尊さを、この詩が私たちに訴えているのです。「あなたは『今』を生きているか?」と。今日はこのように「今」と向き合う時間を作ってみませんか。
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