嫌いだった実家が私の心のふるさとだった

 

 

 

 「『ふるさと』と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか? 私は、古くて狭く、子どもの頃は嫌いだった実家が浮かんできます。最近、よく実家の夢をみます。亡くなった祖父母や両親、弟と一緒に実家で楽しく過ごしている夢なのです。昔は、束縛のように感じた家族、その象徴のような実家の古くさい家。今はひどく懐かしく恋しいです。

 

 

もうすぐ取り壊されるという頃に、無人になった実家に行ったことがありました。玄関の戸を開けると、実家の匂いがしたことを覚えています。実家の建物は、明治24年生まれの祖母が子どもの頃にすでに存在したと言う築不詳の建物でした。

 

そんなふうに言うと、京都らしい町家のイメージを持たれるかも知れませんが、狭くて不便な家を少しでも広く便利に住もうと、その時々の流行で増改築したので、伝統的な京都の町家の風情は少しもないのです。

 

実家で暮らしていた時、私は狭くて古くさい家が嫌で嫌でしかたがありませんでした。でも、家が古くても狭くても、転居したり、全面的に改築したりする経済力が、わが家にはありませんでした。実家は両親や弟そして祖父母と肩を寄せ合うようにして暮らした家でした。

 

 

京町家の台所(イメージです)

   

 

久しぶりに実家に入り、実家の匂いをかぐと、ほっとして気持ちが落ち着く自分に驚きました。石敷きの通り庭の奥には、おくどさんの跡や明り取りの天窓があり、おくどさんの上は吹き抜けになっています。かすかに京都の町家らしさが残っているのです。

 

畳二畳ほどの坪庭に出ると、両親が現在の家に転居して以来放置してあった植木が、あるものは伸び放題、 あるものは枯れていました。

 

伸び放題の楓は、予想より遥かに大きく成長していたのです。鉢底から伸びた根は私の力では動かせない太さになって、庭の地面に根を下ろしていました。楓は私が小学生の頃、伯父がくれたもので、もらった時は小さな鉢植えでした。歳月が流れたのです。

 

 

 

 

実家は不思議な家です。古くて狭く、子どもの頃は嫌いでしかたがありませんでした。結婚して、狭いけれど現代風の家に転居した時はうれしかった。短い廊下と小さな庭がある現在の家に転居した時は、もっとうれしく感じたものでした。

    

でも、実家から離れると、よく不思議な夢を見ました。どこか知らない場所で道に迷っている夢です。やっと見覚えがある場所にたどり着き、一心に目指す「家」は実家なのです。

  

祖父母が苦労して買い、父が受け継ぎ、 80年近く、私の家族が暮らした家です。私の心の根っこは、楓のように実家に根を下ろしていたのかも知れません。

   

現在の家も実家も同じ京都市の下京区です。実家が取り壊されてもう何年も経ちます。でも、「ふるさと」と言うことばを聞くと、私の心には、子どもの頃は嫌いだった実家が浮かぶのでした。実家の家は、私の心のふるさと魂の家なのだとしみじみ思います。家は単なる建物ではなく、時間とともに心のふるさとになるのだと感じるのでした。

 

 

京都在住セラピスト作家:村川久夢(むらかわくむ)

  

 

私の心のふるさとは、京都の片隅にあった実家。その懐かしい記憶と共に、私は今も京都の街を歩き、日々新しい発見をしています。拙書『ああ、京都人~今を生き抜く知恵おしえます~』では、観光地としての京都ではなく、日常の中に息づく京都の姿を綴っています。まるであの実家のように、知れば知るほど愛おしくなる京都の街。そんな魅力をお伝えできればと思っています。

 

 

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