沈丁花の甘酸っぱく爽やかな香りが匂う季節になりましたね。沈丁花の香りが漂う頃になると、「今年も卒業の季節がやって来たな」と思い、私が小学校を卒業した春のことを思い出すのです。
私は集団生活が苦手で、小学校時代に友だちと呼べる人がほとんどいませんでした。特にいじめられ、仲間はずれにされていた高学年の２年間は、学校に行くのが辛くて、卒業を指折り数えて待ったほどでした。
ところが卒業式が近づくにつれ
「卒業するんだ…」
と私はとても感傷的な気分になったのです。あんなに早く卒業したがっていたはずなのに…。
今は廃校になった母校の正門付近には、沈丁花の植え込みがありました。春になると濃淡の花弁が可憐な沈丁花が咲いていました。
沈丁花は毎年の春、爽やかな香りを漂わせていたはずなのに、卒業の年が来るまで、沈丁花の香りに私は気づいていませんでした。卒業を控えた年の春、私は初めて「花の香り」を、そして「別れ」を意識したのです。
それ以来、沈丁花の香りが漂うと、多感な少女だった頃の、感傷的な気分を思い出します。
沈丁花の香りただよう早春は、別れの季節。あの時、私は何と別れ、何から旅立ったのでしょう？
不器用で集団生活について行けなかった日々。いじめられ仲間はずれにされた日々。逃げ込んだ図書室で本を読み、お話を作った日々が胸の痛みを伴って思い出されます。
初めて花の香りに心が揺れたあの時が、私が人生で初めて経験した別れと旅立ちの時でした。いじめられ疎外されることが当たり前になっていた環境との別れ、孤立することからの旅立ちだったのです。
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