【親の介護】素直に話し合えて良かった

 

4年前、父が圧迫骨折で入院していた時、夕方2時間ほどを父の病室で過ごし、私は父とよく話をしました。

  

昔の父は常識人間でした。正論やお説教ばかりで、まったく面白みがありませんでした。でも高齢になり認知症気味になってからの父は、幼い少年のように素直で、話しているとなかなか面白いのです。

   

<苦労をさせて可愛そうやった>

父の話に私たち家族の支配者だった父の母、つまり私の父方の祖母の話しがよく出て来ました。

 

「お母ちゃん(祖母)は気難しくて怖かった」「お母ちゃん(祖母)は気に入らんことは『いいや』と言って絶対に聞かなかった」「あの人(祖母)に勝てる人はいなかった」

 

父にとって祖母は、かなわない存在だったようです。ある日、父と話していると、母の話しが出ました。

 

「信子(母)は難しい家に嫁に来て大変やったと思う。苦労をさせて可愛そうやった」っと父が言うのです。

 

<父の率直な言葉>

昔の父は、祖母がどんなに横車を押しても、まったく抗議しませんでした。言い訳ばかりして逃げていたのです。私は、子どもでしたが、釈然としないものを感じていました。「オトーチャンはずるい人だ」と思っていたのです。

 

「お父ちゃんがもっとしっかりして、気位ばかり高くて頑固なお祖母ちゃんから、お母ちゃんを守ってくれたら、私とお母ちゃんの関係はもっと良かったのに…。私は人の顔色ばかり見なくても良かったのに…」と父を恨めしく感じていたのでした。

 

私が結婚して実家を離れた時期があったことや、父が高齢になったことで薄らいでいましたが、父に対して釈然としない気持ちがずっとあったことも事実でした。

 

「信子(母)は難しい家に嫁に来て大変やったと思う。苦労をさせて可愛そうなことをした」という父の率直な言葉を聞いたのは初めてだったのです。

 

<父も大変だった>

「お母ちゃんは苦労したな」と私が言うと、「ホンマや。そやけど、子どもは二人ともええ子に育ってくれた」父はそう言いました。

 

父も大変だったんだなと初めて思いました。父にとって祖母は自分の母であり、父は祖母の苦労を誰よりも敏感に感じていたのでしょう。気の優しい父は、苦労の多い人生を送ってきた自分の母に、厳しいことを言えなかったのでしょう。

 

<素直に話し合えて良かった>

それに、父には父のプライドもあり、祖母の言いなりだったことを批判されると、言い訳ばかりしてしまったことも、今は理解でできます。

 

父の素直な言葉が私の頑なな気持ちを動かしてくれたのでした。ずっとずっとわだかまっていた気持ちを解きほぐしてくれました。

 

「オトーチャン、優しい娘と息子で良かったな。上手に育てたな」と、私が言うと、父は幼い少年のような無邪気な表情で笑いました。その時、父は90歳、私は57歳になっていました。

 

今では、父の認知症が進んで、父はもう私が誰かわからないようです。あの時、お互い素直な気持ちで話し合えて良かったなと心から思います。

 

作家:村川久夢(むらかわくむ)

 

 

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