旬で安価な素材を使い、家庭で工夫して美味しく調理したオカズ。
最近は「おばんざい」と呼ばれ人気です。祖母や母が作ってくれた「菜っ葉とお揚げさんの炊いたん」「千切り(切り干し大根)」「刻みコブと茄子の炊いたん」等を懐かしく思い出します。

「おばんざい」とは?
最近クローズアップされている「おばんざい」と言う言葉ですが、私自身は馴染みがありませんでした。京都のしきたりにはうるさかった祖母の口からも「おばんざい」と言う言葉を聞いたことがありませんでした。
京都大学大学院農学研究科にある「おばんざい研究会」代表、藤掛進さんの報告書「『普通おばんざいとは言わない』の・・・なぞとき」には、
京都の家庭では普通「おかず」と呼ばれている。「おばんざい」という言葉は,1964年に大村しげらが新聞のコラムで「おばんざい」という連載を始めてから,全国的に広がったもの。
と書かれています。同書では「番菜」と言う言葉は1849 年(嘉永 2 年)の作といわれている『年中番菜録』に登場していることが書かれています。「番菜」の意味については以下のように書かれています。
(1).ばんざいの意味
ばんざいの「ばん」の漢字は「番」を当てて考えるとすると、番の字は「常用の・粗末な」の意味を持ち、菜は「あおもの、野菜、おかず、副食物、一汁一菜」などと新漢語林には記されていることから番菜=粗末なオカズという意味でよいだろう。
子どもウケしなかった昔からのオカズ
「おばんざい」と呼んでいたかどうかは別にして、私は家庭で作るオカズが好きなんですが、弟も父も食べないんです。

「菜っ葉とお揚げさんの炊いたん」「高野豆腐」「大根とお揚げさんの炊いたん」「刻みコブと茄子の炊いたん」等、地味ですが家庭のオカズは、なかなか深い味で美味しいのです。
でも、子どもの頃は、美味しいと思えませんでした。私が食べないと、母は烈火の如く怒りましたが、父や弟がこのような地味な料理を好まず、食べなくても何も言いませんでした。
当時、「男はこのような粗末なオカズは食べられなくいい」という雰囲気が濃厚でした。
弟は地味なオカズを好まないので、母は前もって、ハンバーグとか、オムレツとか、スパゲッティ、ウインナーソーセージ等、子どもが好むような料理を用意していました。

私が「私もハンバーグがいい」等と言おうものなら、「女の子のくせに!贅沢な!」と母がまた烈火の如く怒るのです。
地味な家庭の味の方が美味しい
でも、大きくなるにつれて、お子様向けの料理より、地味な家庭のオカズの方が美味しいことがわかるようになりました。

ところが、弟は60代になった今も、唐揚げ、ハンバーグ、スパゲッティ、玉子焼き、ウインナーソーセージ等々の方が良いようです。
祖母や母が作ってくれた料理の話をしても、弟は全然覚えていないのです。母がお子様料理をいつも用意していたからでしょう。実は、祖母に甘やかされて、お子様向け料理で育った父の味覚も同じなのです。
消えゆく京都の家庭の味
私が子どもだった頃と違って、今はコンビニもあるし、レトルト食品、インスタント食品、冷凍食品も豊富で美味しく作ってあります。
また、昔、京の都は海から遠く、菜食でタンパク質は大豆製品から取っていたのです。なので、昔から食べていたおかずは、大豆製品と野菜で作られていることが多いです。
食が欧米化しているので、肉類が使われていない昔からのおかずが、好まれないのかもしれません。
私の友人が「鰹や昆布でダシをとって料理すると、子どもが『味がしない』と言って食べない。だしの素を使うと『美味しい』と言って食べる。家で手間をかけて料理した地味なオカズより、コンビニの唐揚げの方が美味しいと言う」と嘆いていました。
こうして地味だけれど美味しい京都の家庭料理が、食べられなくなって、消えて行くのだろうなと感じます。

<安価で美味しく工夫する知恵は残って欲しい>
一方で「ご当地グルメ絶品『おばんざい』」、「京都に行ったら絶対に行きたい『おばんざい処』10選」等と言う、雑誌やネットのセンセーショナルなタイトルを見ると、違和感満載になる私でした。

家庭でごく普通に食べていた地味なオカズは姿を消して、商業化、ブランド化に成功した「おばんざい」が持ち上げられ、けっこうなお値段で提供されえている。なんとも複雑な気持ちです。

京都の家庭のおかず(いわゆる「おばんざい」)は、「これ」と決まっているのではなく、旬の安価な素材を一手間かけて美味しく調理した家庭料理のことだと私は思います。時代に合わせることも必要です。その知恵に価値があるのだと感じています。
(「【ああ、京都人】観光で大人気の「おばんざい」と京都人の本音:村川久夢)

<参考記事>
*「普通おばんざいとは言わない」の…なぞとき(京都大学大学院農学研究科:藤掛進)
<『ああ、京都人~今を生き抜く知恵おしえます~』>

*村川久夢は京都生まれの京都育ち。一人の京都人の目を通して、京都や京都人について、拙書『ああ、京都人~今を生き抜く知恵おしえます~』に書きました。
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