【ああ、京都人】京都人は良くも悪くも公家の影響を深く受けている~『和宮様御留』を読んで~

 

 

久しく小説を読まなかったのですが、幕末の京都が舞台の小説を読もうと思い、有吉佐和子著『和宮様御留』を再読しました。小説が面白いだけでなく、京都人が御所や公家の影響を良い面も嫌な面も深く受けていることを強く感じ、ブログにまとめました。

 

  

<幕末の京都がどのように描かれたか>

私は有吉佐和子ファンで『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『助左衛門四代記』『乱舞』『連舞』『恍惚の人』等を読みました。『和宮様御留』を初めて読んだのは大学生の時でした。

    

『和宮様御留』は、攘夷か開国かで二分された国論を調停するために、皇妹・和宮は徳川将軍家に降嫁せよと勅命を受けます。彼女の身代りとされた少女フキは何も知らされないまま江戸へ向かう輿に乗せられると言うストーリーの歴史小説です。

 

今回、『和宮様御留』を読んだのは、有吉佐和子がどのように幕末の京都に生きた和宮を描いているのかに興味があったからでした。

    

和宮(1846~1877)が生きた時代は、私の曽祖父母(もちろんごく普通の庶民ですが)の時代とも重なっていることもあり、一層興味深く感じたのです。

   

<京都人が公家文化の影響を深く受けている>

『和宮様御留』は小説として面白いだけでなく、京都人が公家文化の影響を深く受けていることを、小説の端々から感じました。

 

《公家文化の影響》

1、御所言葉(女房言葉)の影響

御所言葉の会話部分を読んでいると、「京ことばの語源は、御所言葉なんだ」と感じました。例えば「お嫌さんであらしゃる」(嫌でいらっしゃる)と言うような表現が度々登場します。

    

*今日までほんまにお嫌さんのことばかりであらしゃりましたよってに

(今日まで本当に嫌なことばかりでございましたので)

*本日の御膳はお好きさんであらしゃるお冷やのおずるでござります。

(今日のお食事はお好きでいらっしゃる素麺でございます)

 

京ことばの「~しゃはる」や「お~さん」をつけるのも、御所言葉の影響なのだろうと感じたのでした。

 

強調するのに「おあつあつ」「おするする」等、繰り返して、強調表現をするのも御所言葉の影響のようです。

 

お冷やのおずる

 

町方の言葉とは全然違っているのだと思いますが、「現在の京ことばの語源かな?」と感じる御所言葉を見つけるのは、読書中とても興味深く面白く感じました。

 

2、しきたり、縁起を担ぐ、京都風の礼儀作法を重んじる

公家たちが、呪い、方位、しきたりを大変尊重している様子も描かれていました。

   

和宮の伯父橋本実麗が、玄関から出る時に必ず右足から出るようにしている描写がありました。左足の「ひ」の音が「貧(ひん)」に通じると言う迷信があるためのようです。左右と歩くたびに、「貧福貧福(ヒンプクヒンプク)」と呟くのが公家たちの呪いであったと言うのです。

    

暗剣殺、鬼門などの方位、縁起の良し悪しなどの合理的でないように思われるしきたりが、うるさいほどあるのに驚きました。

  

ちなみに、ごくごく普通の京都庶民のわが家にも、鬼門除けがあり、引っ越しや家の工事の際には、父が方位除けの神社城南宮さんへお参りして、方位除けの御札を貰っていました。

   

東本願寺の鬼門封じ

 

3、小さな公家町が世界

公家町が(南北は今出川通りから丸太町通り、東西は烏丸通りから鴨川)天皇を頂点にした一つの世界であったと言うのです。天下の実権は関東に移り、公家たちの生活は貧しいのですが、公家は自分たちの血筋や身分を誇りに生きているのです。

 

京都人のプライドの高さや世界の狭さの大きな理由を知ったように感じました。

  

京都人のなかには時代錯誤に感じるようなプライドを持っている人たちも少なくありません。京都では北を上(かみ)、南を下(しも)と呼ぶのですが、以前、御所周辺の住人で時代錯誤なプライドを持っている人に「どこに住んではるの?」と聞かれたことがありました。

 

私が「京都駅の近所です」と答えると、「私ら、そんな下(しも)行ったことないわ~」とその人は言うのです。京都御所は京都駅から4~5km、バスで10分ほどの距離なのです。

   

その人にとっては、御所周辺のお公家さんのお屋敷があった地域に住んでいて、そこから出たことがないのが自慢のようでした。

   

私は京都が好きですが、こういうタイプの人は抵抗を感じ、好きではありません。

 

京都駅と京都タワー

   

<『和宮様御留』を読了して>

『和宮様御留』に引き込まれるようにして、夢中で読みました。御所や公家の文化が、京都人の価値観、気質、文化、言葉に深い影響を与えていることも面白く感じました。

 

 

しかし、登場人物の誰一人、幸せそうな人はいませんでした。歴史に翻弄された和宮、身代わりにされたフキは哀れとしか言いようがないのです。また、家柄や身分にだけすがって生きる公家や女房には、嫌悪感さえ覚えました。しきたりが独り歩きして、誰も幸せではないのです。

 

伝統や文化は尊重すべきだと思いますが、やはり人が幸せに生きるための伝統であり文化なのだと強く感じました。

 

村川久夢

 

 

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