【短編小説】たのんまっせ~価値観が全く違う夫婦の物語~

 

(その1)

今日は部下の中村の結婚披露宴、この中村、新人のくせに世間をなめきっている。この結婚はいわゆる「できちゃった結婚」である。

         

坂東は48歳、中小工務店の設計部長である。仕事柄、職場関係の結婚披露宴に招かれる機会が多くなった。「また結婚式~!?いくら包むの!?おめでたいことやけど、こっちは寿貧乏やわ~」 と、嫁ハンの久美子は渋い顔をしていた。

 

「俺が招待してくれと言うたんちゃうわい!」と言いたい所だが、坂東の一言に火炎放射器のように返って来る久美子の口攻撃が恐ろしいので、「ん・・・」と聞こえないふりをした。

 

披露宴が始まった。お決まりの媒酌人の新郎新婦の紹介や紋切り型の主賓の挨拶、やたらに長い乾杯の音頭、坂東はあくびを堪えるのに必死だった。新郎新婦の席に目をやると、中村は世間をなめきってるくせに、ウエディングドレス姿の新婦に鼻の下をのばしている。

 

「中村~今のうちやぞ~そんな鼻の下をのばしてられるのは~」と坂東は薄ら笑いを浮かべた。

 

(その2)

坂東は10年前、知人の紹介で、そこそこ名の知れた会社のOLだった久美子と結婚した。坂東が結婚したのも秋の結婚シーズンのこんな時期だった。10年前、結婚披露宴でドレスアップした嫁ハンの久美子に、鼻の下を伸ばしたことを苦々しく思い出した。

  

36才で結婚するまで坂東は長い一人暮らしをしていた。独身男の一人暮らしは気ままでいいが、侘しくもあった。結婚してからは、仕事を終えて家に帰ると、今までは真っ暗だった家に灯りがともって、夕食の準備をするエプロン姿も初々しい久美子が「おかえり~」と迎えてくれた。

 

家財道具は、ほとんど坂東の独身時代の物をそのまま使っているが、やはり侘しく一人で食べる食事とは違う。久美子は親元で暮らしていて家事には不慣れだったが、しばらくすると、坂東と自分の弁当も作り始めた。ずっと憧れていた「愛妻弁当」が実現した。「いい人を紹介してもらったな~」と坂東は満足だった。

 

しかし、坂東は「自分がいかに甘かったか!!」を痛感するのにあまり時間はかからなかった。

 

(その3)

寒くなりかけたある日、坂東が帰宅すると石油の匂いがする。給油が面倒なことや石油の匂いが気になるので、石油系の暖房機はないはずだが・・・不思議に思って台所をのぞくと、そこには古色蒼然とした石油ストーブが赤々と燃えていた。

 

「実家で使わへんって言うからもろて来た」と久美子は得意げだった。ストーブの上には煮物の鍋がのっていた。「ストーブやったらお湯も沸くし、煮込み料理にちょうどええし~」「そうか~」と坂東は答えたが、ふっと嫌な予感がした。しばらくすると、いつの間にか食卓から自動湯沸しポットが姿を消し、保温のみの古いポットが置かれていた。

 

日曜日には、「フローリングの床に直接ホットカーペット置くと熱が逃げるねんて~」と久美子に言われ、断熱マット敷きを手伝わされた。風呂に入ろうと思って風呂ブタを空けると何か浮いている物がある。さっきの断熱マットだ。

 

「くくく!風呂にまで使うか~!?」と驚いたが、風呂からあがるともっと驚いた。洗濯機の上に湯たんぽが置いてあるではないか!「湯たんぽ!こんなんきょうび誰が使うねん?」と思ったが、「これ温かいらしいよ~」と久美子は喜々としてやかんの湯を湯たんぽに注いでいる。

 

翌朝、坂東はまたまた仰天した。久美子が湯たんぽの湯で顔を洗っているのだ。「ひえ~~!!やめてくれ~!」と思ったが言いそびれた。久美子は恐ろしい節約魔だったのだ。

 

(その4)

坂東はいたって無趣味な男だった。趣味と言えばパチンコとプロ野球観戦、他は誘われればゴルフに行く程度だった。独身時代は仕事を終えて、真っ直ぐに家に帰るのが侘しく、毎日のようにパチンコをして家に帰っていた。

 

「久美子がいい顔をしないだろうな」と思っていたが長い間の習慣は、そうすっぱり断ち切れるものではない。「仕事が終わったら、真っ直ぐ家に帰ろう帰ろう」と思うのだが帰り道、国道沿いにある行きつけのパチンコ屋を見ると入ってしまう。

 

「早く帰ろう、早く帰ろう」と心では思うのだが、「もう少し、もう少し」と未練たらしくパチンコをすると、すぐに時間が過ぎた。

 

「ただいま」と、恐る恐る久美子の顔を見た。夕食の準備を済ませてリビングでテレビを見ていた久美子は、「おかえり、遅かったね。」とだけ言ったが目が怒っていた。「ちょっと遊んできた」と坂東が大きな身体を縮めながら言うと、久美子は黙って台所に入り夕食の準備を始めた。

  

翌日は、真っ直ぐに家に帰ったが、その次の日は、またパチンコに行ってしまった。そのまた次の日は、本当に仕事が忙しく残業で帰りが遅くなった。

   

残業がある日は、パチンコで遊んで帰る日とほぼ同じような帰宅時間になったが、パチンコで遅くなったか、残業で遅くなったか、久美子にはバレバレだった。

  

しばらくするとパチンコで遅く帰った日は、久美子は黙って夕食の準備をし、残業で遅くなった日は「おかえり~」と声をかけることに気がついた。二人で食卓に向かっていても、坂東がパチンコをした日、久美子はほとんど話をしない。

 

おしゃべりな久美子が黙ってしまうと、口下手な坂東は何も話す事がなく、重い沈黙が続いてしまう。「文句があるなら言えばいいのに」と坂東は内心思ったが、沈黙している久美子が恐ろしくて、新聞を見ながら、早々と夕食を済ませてリビングに逃れた。

  

恐ろしい・・・!!

 

まだこの頃、久美子の火炎放射のような口攻撃は経験していなかったが、この沈黙も恐ろしい。昔先輩が言っていた言葉を思い出した。「女の沈黙ほど怖いものはないぞ…」

 

(その5)

久美子は京都生まれの京都育ち、生粋の京女だ。「京女」→「和服」→「おしとやか」と言う連想が成り立つのか、「奥さんはどこの人です?」と尋ねられ「はあ、京都ですわ。」と答えると、たいてい「京女ですか~よろしいな~」という返答が返ってくる。

 

坂東は「はあ」と曖昧に答えているが、内心「みんな何も知らんのやな~」とつくづく思う。坂東夫婦が結婚して住居をかまえたのは、京都の中心部、いわゆる京町家が並ぶ古い地区だ。

  

観光で成り立っている都市なので、旅行者には人あたりが柔らかで「京都の人は優しい」という印象を与えるらしい。

   

しかし実際に「住む」となると話は別で、京都人は閉鎖的でよそ者を嫌う傾向がある。坂東たちも転居の際には、挨拶の粗品を持って挨拶回りをした。運悪く町内会の役員宅が留守であった。

   

坂東も久美子も朝早く出勤し、夜遅くに帰ってくる。つい挨拶回りをした日に留守だった家への挨拶を失念していた。

    

坂東が出勤しようとすると隣の婆さんが、「坂東さん、山田さんに挨拶行はった?『引っ越して来ても挨拶ひとつない礼儀知らずや!』とか言うて、山田さんが文句言うてはりましたえ。」と声を掛けてきた。

  

挨拶に行けなかったのは坂東たちの落ち度であるが、勝手に礼儀知らず扱いされ坂東は不愉快だった。

  

夜、久美子にこのことを伝えると、「うっとしいな~!どこにでもいるねんそういう人!でも挨拶だけは行っとこか、『陰でごちゃごちゃ言うな』って文句言うたろかしら!」と久美子はさも不愉快そうに言った。

  

それでは今から行こうと言う事になって、坂東と久美子は山田宅に出かけた。呼び鈴を押すと、いかにも一癖ありそうなオッサンが出てきた。

  

坂東が挨拶しようとすると、久美子がさっきとは別人のように優しい声をだして、「いや~山田さん、堪忍してくださいね。ご挨拶に来させてもろたことは来させてもろたんですけど、あいにくお留守でしたし、すぐに寄せてもらうのがほんまなんですけど、えらいご挨拶が遅なってすんません。堪忍してくださいね」

 

そして坂東の手から粗品とかかれた挨拶の洗剤の箱を取ると、「これ、しょうもないもんですけど、お近づきの印に 。ほんま堪忍してくださいね~」と洗剤の箱をオッサンに渡した。

 

オッサンも下手に出られると出かかった小言も言いにくいのか、「ああ、そうでっか、いつもお留守ですさかい 。まあよろしいわ。またえらい気つこてもろて、まあよろしゅうに」とだけ言った。

  

あっけにとられて見ていた坂東も「よろしくお願いします」と 一言だけ挨拶をして帰った。「久美子~お前よう言うね~!全然態度違うやんけ!「そんなん口はただやもん、角立ててもしゃあないやん」と 久美子は涼しい顔で言った。

 

そのあと、坂東の車の排気ガスが家に入って息苦しいと 苦情の手紙を入れてきた婆さんも、いつ行っても留守だと文句を言っていた町内会の別の婆さんも、すっかり久美子の口に丸め込まれて何も言わなくなった。京女の実態なんてこんなもんだ。

 

(その6)

久美子は恐ろしい節約魔で500円玉貯金までしているくせに、案外家計はどんぶり勘定で計算が苦手なことに坂東は気がついた。お互いに給料をもらうと、それぞれ生活費を出し合い、共同名義になっている自宅のお互いの住宅ローンを支払い、それぞれの名義で同額の定期積み立てをすると、給料の残りはそれぞれが管理することになっていた。

 

久美子は知らないが、坂東は独身時代、必要な生活費を除いて収入のほとんどをギャンブルに使っていた。パチンコ、麻雀、競馬、たいていのギャンブルは好きだった。

 

また贅沢好みで洋服や靴もブランド物が多かった。久美子との結婚が決まった時、貯金はほとんどなく、車のローン、パソコンのローンなど、まだいくつかローンが残っていた。結婚して住宅ローンがそれに加わると小遣いにできる金額はわずかだった。毎月の小遣いに当てている金はすぐに底をつき、総合口座に50万円の定期があるのを良いことに、口座から小遣いを引き出すようになった。

  

パチンコ代、タバコ代、車検、車の保険、出費が重なる時は重なるものだ、大学時代の友人との同窓会も迫っていた。坂東は北陸の出身なので北陸の温泉宿で毎年泊りがけの同窓会に出かける。

    

「まあいいか~いいよな~」と金をチビチビ引き出しているうちに、総合口座のマイナスの金額は恐ろしい金額になっていた。そんな時だった、突然に冷蔵庫が故障した。やばい!金がない!久美子にばれる!

 

 

(その7)

倹約魔のくせに預金やお金に疎い久美子は坂東の通帳を見て、「この数字のマイナスって何?」と不思議そうに尋ねた。

 

「俺、金ない、定期預金を担保にして借りた金や!」「えええええ~! どういうこと?!」「借金や!金ない、無いもんは無い!あったら出すわ!」と答えに窮して居直ってしまった。

 

久美子は血相を変えて「何を居直ってんの~!調子に乗って毎日毎日、パチンコ屋に寄付ばっかりしに行って!日ごろからお金を貯めとかへんさかいに、こういうことになんねんよ!」

  

「うるさい!週に1回か2回だけやろ!毎日なんか行ってへん!」「なに言うてるの、これを見てみ!」と久美子が指差したのは台所のカレンダーだった。日付の余白に久美子の几帳面な字で「P」という印がしてあった。

 

久美子はカレンダーに近寄ると、「あんたがパチンコ屋に寄付しに行った日や!1回2回・・・」と久美子は声に出して数え始めた。「(ひえ~~!やばい!記録つけとるし!!)」と坂東はたじたじとなった。

 

「11回、12回、13回・・・週に1、2回パチンコ屋に行っただけで月に13回になるん?!」「ぐぐぐぐ・・・」「毎日私が弁当作ってるけど、浮いた昼食代もパチンコにつぎこんで!」

 

「うるさいわい!金は使うためにあるんじゃ!金は天下の回り物っていうやろ!」

 

「へ~そうなん、ええこと聞いた。私のとこにもお金を回してよ!」

  

「人には定めって言うものがあって、世の中は上手く行ってるにゃ。お前は稼いで俺は使うんじゃ!」

  

「は~!もう一遍言うてみい!私が毎日スーパーに行く時間も考えて、半額シールのものとか狙って買って、節約してこつこつ貯めてるのに~!あんたと言う人は、ご飯ばっかりようけ食べてからに!!」

   

弁解しているつもりが、坂東は支離滅裂な理屈をつけて居直り、よけい久美子を怒らせてしまった。「(そうか~昨日食べた刺身の盛り合わせも半額シールの口か)」とおかしなことに納得しながら、坂東は逃げ道を探した。

   

もこうなると、5匹いる飼い猫どもに当たるか、壁を蹴るしか逃げ道が無い。

 

「また猫に当たるか!壁けるんかい!」

「(ぐ~先回りされた!くっそー!!)」

二人の殺気を感じた猫たちは久美子の後から坂東の様子を伺っている。

「(くっそ~猫まで嫁ハンの見方か)」

 

仕方なく坂東は「P」印のある壁のカレンダーを思い切り殴った。手が痛かったが、久美子の手前痛そうな顔もできず。

 

「嫌味な奴や!こんなもんつけやがって!」と捨て台詞を残して寝室に逃げた。さっき壁を殴った手が痛い。

 

(その8)

翌日久美子は知り合いの家電店でさっそく冷蔵庫を買って来た。おそらく久美子の貯金で買ったのだろう。坂東が殴ったカレンダーの壁は幸い凹んでもいず無事だったが、坂東の手は数日痛み続け、しかも久美子から経済封鎖を言い渡されてしまった。総合口座の通帳とカードを取り上げられてしまったのだ。

   

次の日曜日手は痛いは、パチンコには行けないは最悪だった。仕方なくリビングでテレビを見ている坂東のところに、猫は一匹も近づいてこない。坂東のストレスのはけ口にされないように猫たちは、久美子の側を離れない。

   

しょうことなくテレビを見ていると、「リビング掃除するし、そこちょっとのいてんか~」と掃除機をもった久美子がリビングに入ってきた。

   

久美子は節約魔で、しかも整理整頓が大好きな掃除魔だ。

 

「パチンコにも行かせないなら、家でゆっくりさせてくれよ!なにも俺がリビングにいるときに掃除せんかてええやろ!」

「自業自得やろ!すること無いのやったら、洗濯物でも干してんか!」

「(しまった、いらない事を言わなければ良かった。)」

 

冷蔵庫の引け目もあるので、仕方なく洗濯物を干し始めた。坂東の同僚の嫁ハンたちは、たいていが専業主婦で、同僚たちは家では縦のものを横にもせずにいるというのに、

 

「あ~あ~うちの社員で嫁ハンのパンツなんか干してるの俺だけやろな~こんな姿、田舎のオカンが見たら泣くぞ!くっそ~!久美子のやつめ!」

 

洗面所から台所を見ると、リビングの掃除を終えた久美子が台所を掃除している。毎週日曜には電子レンジ、オーブントースター、ガスレンジなど、普段手の回らないところを熱心に磨きたてている。

 

専業主婦ならともかく、久美子のあの節約パワー、お掃除パワーはどこから生まれるのだろう?口げんかをすれば、証拠をつかんで理路整然と、しかし火炎放射器のような勢いで言い返してくる。

 

身から出た錆とはいうものの、経済も久美子にしっかり握られている。5匹の猫たちは全部久美子になついて、坂東によりつきもしない。

 

「ほんまにおもろない!こんな嫁ハンやとは思わなかった」

 

テレビのコマーシャルなどで「無料お試し期間」と宣伝しているが、なぜ嫁ハンは「無料お試し期間」がないのだろう?「いまさら、返品もできひんしな~」坂東は二人分の洗濯物を干しながら侘しい気分になった。

 

独身時代の侘しさとは、また違う侘しさだ。「男って哀しい生き物なんやな~」つくづく思った。

 

(その9)

おっと、あかん!披露宴会場で居眠りするところだった。退屈な祝辞を聞いているうちに眠気をもよおしたらしい。

 

10年前、今日の新郎のように結婚式で鼻の下を伸ばしていた坂東。プロの手できれいにメイクアップされウエディングドレスを着ていた久美子。式が終わって二人で新居に帰れるのがうれしかった。

 

仕事を終えて家に帰ると灯りがともって、夕食の準備をして待っていてくれる嫁ハンがいることがうれしかった。昼休みに「愛妻弁当」を食べるのが、うれしいような照れくさいような。俺にもそんな日があったんだ。

 

考えてみれば不思議なものだ。久美子は仕事も家事も良くやっている。あまりに貧乏くさくて辟易することもあるが、倹約して住宅のローンも完済した。坂東には口うるさく文句ばかり言うが、痩せて死にかけている子猫を見捨てられないで育てているように、根は優しい女だ。

 

回数は減ったが、坂東のパチンコ好きは今も変わらない。久美子がしっかりしているのをいいことに久美子の尻に敷かれているふりをして、家の事は何もかも「まかすまかす」と久美子に押し付けている。

 

ありがたいとは思う。すまないとも思う。しかし、たまに久美子が職場の飲み会や社員旅行で、帰りが遅くなる日や家を空ける日があると、坂東は独身時代に帰って生き返ったような気がした。

 

「なんで世間の男も女も結婚したがるのだろう?」

 

(最終話)

いろいろ考えるうちに、坂東が祝辞を述べる番になっていた。坂東は内ポケットから祝辞の原稿を出し、マイクに向かった。

 

「中村君、真知子さん、結婚おめでとうございます。ご両家の皆様おめでとうございます。本日はお招き頂きありがとうございます。

 

ただいま紹介いただきました坂東です。新郎の中村君とは同じ職場で働いております。中村君は若くバイタリティにあふれる青年です。

 

新婦の真知子さんはすでにご存知だと思いますが、私たちの仕事はハードで夜遅くまで仕事に追われています。どうか家庭で彼をしっかり支えてあげて下さい。

 

ところで中村君、私も10年前新郎の席で参列者の皆様から祝福を受けていました。その時私はウエディングドレス姿の新婦が、こんなにもたくましく強いとは夢にも思っていませんでした。あの日以来10年、私は強くたくましい妻の尻に敷かれる毎日を送っております。

 

しかし、私はこれで良かったと思っております。

 

のん気な私とたくましい妻、お互いに足りない所を補い合い、助け合いながら生活しております。

 

中村君、結婚10年の先輩としてアドバイスできることは、先ほども述べましたが、夫婦がお互い足りない所を補いあい助け合うことです。夫婦のあり方は様々だと思いますが、補い合い助け合うことを忘れず、二人で新しい夫婦のあり方を求めて行って下さい。

 

本日はご招待頂きありがとうございます。お二人の末永いお幸せを祈って祝辞とさせていただきます。ありがとうございました。」

  

紋切り型の祝辞に飽き飽きしていた披露宴参列者に坂東の祝辞は大受けだった。祝辞の途中には何度も爆笑が起こった。中村のお母さんは、坂東の祝辞に感激してビールをつぎに来た。悪い気分ではなかった。

  

「(そうか~足りない所は補いあい、助け合う。なかなか良いこと言うな~さすが久美子や!)」坂東は今日の祝辞の原稿も久美子に考えてもらったのだ。

 

「(『足りない所は補いあい…』か~、俺は久美子に補ってもらってばかりやな。たまに洗濯させられて、パンツを干すくらいはしかたがないかも知れないな~)」

  

坂東は昔「夫婦善哉」という古い映画をテレビで見たことがあった。映画のラストで頼りない主人公が嫁に向かって

 

「おばはん、頼りにしてまっせ~」

 

というシーンがあった。火炎放射のような口攻撃の久美子。貧乏くさい節約魔、徹底したお掃除魔の久美子。

  

「そうやな~俺が久美子に言うとしたら、『これからもたのんまっせ~』かな」と坂東は思った。

 

 <完>

 

 

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