死別の悲しみを乗り越えて~やっと涙が流れた~

私の夫は2009年9月に亡くなりました。

夫の死から約10年の歳月が流れました。

この10年を振り返ってみると、

亡くなった直後も辛かったですが、

初盆を迎える頃が強烈に苦しかったことを

今もはっきり覚えています。

 

初盆を迎える頃というのは、

その前年は夫がまだ生きていたので、

記憶がとても生々しいのです。

何を見ても何をしても何を食べても、

「去年の今頃、夫はまだ生きていて、

一緒に~を見た

一緒に~をした

一緒に~を食べた」

とひどく胸が痛みました。

 

夫の命日が近づくと

夫が亡くなった日が

まるで夫の死刑執行の日であるかのように、

私は怯えました。

夫は既に亡くなっているというのに。

 

ところが胸が焼けるように苦しいのに、

私はどうしても夫の死を

受け入れられませんでした。

 

夫はもう絶対に帰って来ない、

どんなに頑張っても

もう二度と会えないという事実を

私はどうしても

受け入れることができませんでした。

 

辛くて苦しいのに涙が出ないのです。

いつも鉛の塊を抱いているかのように

心が重く息苦しくて辛かった。

 

その頃、私は辛くて耐えられなくなると、

ガレージに行って夫の車に乗りました。

夫が自慢にしていた車です。

 

夫の愛車のドアを開けると

一斉にいろいろな匂いがしました。

車用の芳香剤の匂い、

工業的な車の匂い、

しぶとく漂っているタバコの匂い、

そして微かに残っている夫の整髪料の匂い。

慣れ親しんだ夫の香りです。

 

キイを差し込んでエンジンをかけると、

夫が運転しているような錯覚に陥りました。

 

「あ!帰って来た!

やっぱり嘘やったんや!

死んだなんて嘘やったんや!

おかえり、あんた!

ちょっとだけドライブに連れて行って!」

 

ほんの一瞬だけ夫の香りに包まれて、

私は胸の苦しさから逃れることができました。

 

 

夫が逝って10年になろうとしています。

 

妄想ドライブと夫の香りの思い出を

自分で書いて、

書きながら涙が流れました。

 

この世では夫にもう会えないことを

やっと受け入れることができたから。

夫が私の側にいなくても

私は自分の信じた道を

一人で歩けるようになったから。

 

夫の死の悲しみを乗り越えた今、

やっと涙が流れました。

 

 

 

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