▶深夜のどうでもいい電話
友だちのMちゃんが深夜に電話をしてきてこう言ったのです。

「くむちゃん、元気?」
「元気やけど、どうしたん?」
「……。元気やったらええねん。それが聞きたかっただけ……。おやすみ」
迷惑と言えば迷惑な話ですが、「Mちゃんはきっと何か相談したいことがあったんやな……」と感じました。
▶打ち明けられないことに真実がある
ふとレバノンの詩人ハリール・ジブラーンのことばを思い出したのです。
【相手の本音は自分に打ち明けたところにではなく、打ち明けられなかったところにある。だからもし相手を理解しようと思うのなら、相手が言ったことにではなく、言わなかったことに耳を傾けなさい。」(ハリール・ジブラーン)】
ちょっと矛盾しているように感じますよね?
▶一番話したいことは一番話しにくい
あなたは、「一番話したいことは、一番話しにくい」と思った経験はありませんか?
今は大胆に自己開示しているように見える私にも、わかってほしいことを言えなかった時があったのです。

たとえば、SNSが好きで頻繁に投稿していても、教師だったことを絶対に言わなかった時がありました。
実は教員時代、夫の急死でうつ病が悪化して、まともに英語を教えられなくなり、生徒にも同僚にも嫌われ、校長からは退職を何度も勧告されて、教師をやめることになったのです。
その頃、誰に相談しても、「苦労して教師になって、今まで頑張ってきたんだから、辞めたらもったいない。頑張れ! 頑張れ!」と言われました。
仕事が苦痛で辞めたいのに、誰にもわかってもらえず孤独でした。
仕事が終わって、やっと家に帰ると、時間が過ぎて明日になるのが怖くてたまらなかったのです。寝たらすぐ朝になるので、深夜まで起きて、お菓子を食べまくって気を紛らわしていました。当然ですが、恐ろしいスピードで太りました。
結局、退職することになったのですが、職場を去る時、ことばをかけてくれる人は誰もいませんでした。追われるように学校を去ったのです。
誰にも教師だったことを話さなかった頃、私にとって一番わかってほしかったのは、教師を辞めて、これからどのように生きたらいいかわからない苦しさでした。

ハリール・ジブラーンの言うように、一番話たいことは、一番話にくくて、話せませんでした。
▶つらい過去をどうして乗り越えたか
私がどうしてその状況を乗り越えたか?
うつ病が安定した頃、「書くことで自己表現して、自分のメッセージを届けたい。共感されたい」と思うようになり、エッセイや短い小説を書いてブログに投稿するようになりました。

ブログ原稿が溜まると、本にして出版したい思いが募ってきたのです。思い切って、東京の電子書籍出版スクールに通い、スクールからエッセイ集を出版することを決意しました。
スクールの先生から「久夢さんの人生で特筆すべきことは、ご主人の死やうつ病を乗り越えたことです。それが一番強い読者へのメッセージになります」とアドバイスされたのです。
こうして、一番目を向けたくない過去を原稿に書くことになりました。最初は逃げまくっていました。
自分の本を出版したい一心で過去と向き合ったのです。ところが、決意して書き出すと、意外にも過去の自分を客観視できるようになりました。

つらかった時のことを書くと、「あの状況では、あんなふうになるのは無理なかった。いや、あんなつらい状況でよく頑張れた」と思えるようになったのです。書くことで、つらい過去を昇華できたのです。
▶過去と向き合えた時、問題は半分以上解決していた
今振り返ると、過去から逃げていた時が、一番みじめでつらかった。決意して向き合った時は、半分以上、問題は解決していたと思います。

そして、「書く」と自分を客観的に見られました。その時の状況を書き出すと、もやもやした感情を整理できて、本質的なことが見えてきたのです。
退職前の私は、まともに教えられずみじめでつらかった。でも、一方で夫の急死で悪化したうつ病を治療しながら、なんとか勤務していた自分を認められるようになったのです。
▶書いてつらい過去を昇華しよう
誰にでもみじめでつらく、なかったことにしたい過去があるのではないでしょうか? 誰にも言えず、悶々として、逃げてしまうこともあるでしょう。
もし、あなたが誰にも話せずに悩んでいることがあったら、勇気を出して向き合う決意をすることが転機になります。
その時、どんなに拙い文章でもいいので、「書く」ことが大きな助けになってくれます。自分を客観視でき、書くことでみじめでつらい過去を昇華できるのです。

勇気を出して、向き合ってみませんか。怖いと感じると思いますが、向き合って、書くことで自分を客観的に見て見ましょう。
(一番話たいことは一番話にくいこと~書いて昇華し乗り越えた:村川久夢)

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