テーマ「夏の日」で競作をしました。同じテーマなのに、それぞれ全く違う文章になり、個性が明らかになりました。紹介しますね。
<テーマ「夏の日」で競作>
今日は、デイケア仲間の物書き三人(T・Iさん、K・Oさん、久夢)で競作をしました。テーマは「夏の日」です。字数などの制限無しで、自由に書きました。同じテーマなのに、それぞれ全く違う文章になったのです。では、三人の文章を紹介します。
<T・Iさんの「夏の日」>
もうすぐ夏が来る。この胸騒ぎは今も変わらない。久しぶりに訪れた海岸。夕暮れ時とあって、もう人もまばらで、太陽はオレンジ色に輝いて西の地平線に消えていく。
僕は海岸沿いに足を伸ばし、潮の香りを満喫する。狂おしい夏の日、もうその舞台で踊れる世代でないのは分かっている。
「もう帰りましょうよ」かつての彼女の声がした。
「もう少し!」僕は童心に帰ってダダをこねる。
湿った西風が二人の間を通り抜ける。彼女の洗った髪の残り香が、僕の鼻腔をくすぐる。二人は寄り添い、僕は不器用な腕で彼女の肩を抱く。僕は谷村新司のマネをして、彼女の胸元に指先を運ぼうとするが、臆病な指先は震えて、上手く目的地に届かなかった。
「もう帰りましょうよ!」再び彼女の声がした。
あの夏の日の夜の思い出。それ以来、彼女の声はもう僕の耳に届かなくなった。
<K・Oさんの「夏の日」>
今年の夏は、異常に暑い。
俺は近くの海に行くことにした。
サングラスをかけ、海パンをはき、
浮き輪をつけて、電車に乗った。
回りの人たちは、俺を見て笑う。
しかし、俺は気にしない。
スーイスーイと泳ぐ真似をする。
すると、それを見た子供たちが電車の中で、
服を脱ぎ、海パンに着替える。
親達も子供の真似をしだす。
みんな裸になって、海の歌を歌い出す。
運転手までもが、服を脱ぎだした。
みんな仲間だ。
ワイ!ワイ!騒ぎながらも目的地に着いた。
その時、警察官がなだれ込み、
みんな牢獄につれていかれた。
それでも祭りはおわらない。
警官もあきらめて、自ら服を脱ぎ、
一緒に騒ぎ出した。
それを見ていた神様は呆れて、
まとめて、血の池へとおとしていった。
<久夢の「夏の日」>
夏の日というと、琵琶湖畔にあった母方の祖父母の家が思い出される。毎年、夏休みになると、一家で遊びに行っていたからだろうか。
当時、祖父母の家のまわりは、見渡すかぎり田んぼが広がっていた。遠くには琵琶湖の松林が見られた。京都の路地奥で育った私は、その景色がとても好きだった。
ある時、私は小学校の低学年だっただろうか、祖母に連れられて、祖母の畑に出かけた。野菜というと、八百屋の店先でザルに盛られたキュウリやナスやトマトしか知らなかった私は、畑になっている野菜が不思議でならなかった。
祖母は、赤く熟れたトマトを一つもいで私にくれた。トマトは好きではなかったが、祖母の好意を無にするように感じて、「いらない」とは言えなかった。
恐る恐る一口食べると、トマトの味は、給食でイヤイヤ食べるトマトの味とは、全く違っていた。
「甘い! 美味しい!」
口の中に広がるトマトの美味しさは、私が初めて感じた自然の味だ。トマトの香りに、夏の香りを感じた。それは、路地奥の狭い家で自然を知らず育った私にとっては、強烈な味と香りだった。
それは、私が何にもとらわれない自由を感じた日。私にとって忘れられない夏の日だった。
<それぞれの個性が表れた>
私は、T・IさんとK・Oさんの文章を読ませてもらって、「面白いな~!」と感じた。同じ「夏の日」というテーマなのに、三人ともテイストも内容も全然違っていて、それぞれの個性が表れているからだ。
T・Iさんのおしゃれで、ちょっぴり気取った文章。K・Oさんの発想の面白さ。「私の文章は、ありきたりかな?」と思ったが、T・Iさんは「読みやすい文章やね」と、K・Oさんは、「情景が浮かんでくるわ」と言って下さった。
お二人の文章に刺激を受けたし、面白かった。またこんなふうに競作してみたい。
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