「京都の朝は、あっさりのお茶漬けや!」私が幼い頃、生粋の京女の祖母は、こう言い張って、絶対に譲らなかった。なのでわが家の朝ごはんは、お茶をかけたご飯と漬物だけだった。京都の他の家庭が、どうだったか知らないが、わが家はそうだった。
お漬物は、祖母が漬物樽で漬けているぬか漬けだった。季節によって素材が変わるので、けっこう美味しかった。おくどさん(かまど)で炊いたご飯も、まあまあ美味しかったように思う。
だが、365日毎日お茶漬けだと、飽きる!
「お祖母ちゃん、卵のごはん(卵かけご飯)して~」「お祖母ちゃん、お味噌汁たいて~」「お祖母ちゃん、昨日のおかずの残り食べよ~」などと言おうものなら、
「朝から口卑しい!」と祖母はカンカンになって怒った。祖母にとっては「質素であること」が美徳だった。それが京都のしきたりだと、祖母は信じて疑わなかった。他の京都の家庭は、どうだったのかは知らないが、わが家はそうだった。
私は貧相な朝ごはんに、うんざりしていたけれど、祖母の朝ごはんが、本当に美味しく感じて、好きな時期があった。蒸し暑い京都の夏がやって来る、こんな時期だった。
祖母は胡瓜や茄子を、ぬか漬けにしていた。時々、古漬けが出来ると、漬かり過ぎた漬物を、水に浸して塩出しをし、飴色になった胡瓜や茄子を、細かく刻んで絞ってくれた。その古漬けに、おろし生姜をまぶして、醤油をかけると、絶品の美味しさだった。
夏なので、冷やご飯に冷たい番茶をかけ、この古漬けで茶漬けを食べると、美味しくて、何膳でもご飯が食べられた。古漬けの旨味と塩気、生姜のアクセント、冷たい喉ごしが良く、子ども心にも「美味しい!」と思った。
私を支配した祖母は、40年以上前に亡くなり、祖母の漬物樽もとっくの昔に処分された。今では私の朝食はトーストとコーヒーだ。
祖母は何かと言うと「京都では、こう決まっているんや!」と言って、本当に窮屈だった。祖母に対する思いは、長年一緒に暮らした肉親の情と反感が入り混じって、複雑なのだ。
けれど、夏になると、祖母が漬けた古漬けと、冷たいお茶漬けを懐かしく思い出す。私が、古漬けでお茶漬けを食べている時は、厳しくて怖かった祖母が、優しい顔をしていたように思い出されるのだった。
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