【掌編小説】海の音が聞こえる~生まれる前の記憶~

  

大ちゃんは、海の音を聞くのが大好きです。今日もお母さんのお腹に耳を当てて、海の音を聞いていました。

 

 

「大ちゃんどうしたの?」とお母さんが尋ねました。

 

 

 

「海の音を聞いているんだよ、お母さん。

ぼくはお母さんのお腹の中にある海にプカプカプカプカ浮かんでいたんだ。

その時、お母さんやお父さんやお兄ちゃんが、お話しているのを、聞いていたんだよ。

『みんなに早く会いたいな~』って思っていたんだ」

とお母さんに教えてあげました。

   

 

「まあ、そうだったの!」とお母さんは、とても驚いた様子でした。

 

✿たくさんのお友だち✿

大ちゃんは、幼稚園に行く道の道端にある小さなお墓に、野の花を摘んでお供えするのも好きでした。いつもお墓の前で長い時間、小さな手を合わせています。

   

 

大ちゃんは、お友だちと遊んだり、ゲームをしたり、テレビを見たりするのも好きでしたが、虫や鳥や生き物全てとお話するもの大好きでした。

   

ある時は、傷ついた蛇を家に連れて帰って助けてあげたこともありました。弱っている生き物をみると放っておけないのです。

 

 

✿お侍さんとお姫様✿

ある時、いつも大ちゃんがお花を供えてお祈りしているお墓は、ある有名な武将とその妻の墓であることがわかりました。

 

調査の結果、墓は遠くにある資料館に移されることになったのです。そのことを聞いたお母さんは、大ちゃんが寂しがるだろうと心配になりました。大ちゃんには、そのことを黙っていました。

 

ついにお墓が移動される日になりました。お母さんが、大ちゃんをお迎えに行くと、大ちゃんがお母さんにこういいました。

 

「お母さん、お墓は遠くに移動されるんだね」と。

 

「どうして知っているの?!」とお母さんが驚くと、大ちゃんは入口の方を指差して言いました。

 

「お侍さんとお姫様が、さっきお別れを言いに来てくれたよ。ほら、あそこにお侍さんとお姫様がいるよ」。

 

 

 

 

お母さんは、驚いて入口の方を見ましたが、そこには風が吹いているだけでした。

 

✿生まれる前の記憶✿

 

 

歳月が流れ、大ちゃんは成人してミュージシャンになりました。

 

お父さんやお母さんのもとを離れて一人で暮らしています。お母さんが、大ちゃんは海の音が好きだったことや、お侍さんとお姫様を見た話をしても、大ちゃんは、もうその時のことを思い出すことが出来ませんでした。

 

「大ちゃんの曲を聞くと、穏やかな気持ちになる」「大ちゃんの曲を聞くと温かい気持ちになる」と大ちゃんはよく言われます。

 

大ちゃんは母のお腹で聞いた海の音が聞こえるような気がしました。プカプカプカプカ海に浮かんで両親や兄に会う日を待ちわびた幸せな気持ちも蘇るのを感じました。

 

 

「母さん、ぼくの曲には、ぼくが生まれる前の幸せな記憶が現れているのかも知れないね」

 

 

 

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