掌編小説『空色の色無地~母の形見の着物は女を変えた~』

 

 『空色の色無地~母の形見の着物は女を変えた~』

 

一人ひっそりと暮らす女のもとに、ある日一通の結婚招待状が届いた。

 

女と姉妹同様に育った従妹の娘からだ。

 

家族も仕事も持たない女は、結婚式や披露宴と言った華やかな祝いの場とは縁が薄く、出席をためらった。

 

しかし、夫と離別し女手ひとつで娘を育てた従妹や、小さい頃から可愛がってきた姪のような従妹の娘を祝福したい気持ちは十分にある。

 

女はためらいながらも出席の返事を出したのだった。

 

式の日が近づくにつれて出席の返事を出したことを女は後悔した。

 

結婚祝いの準備、華やかな祝いの場にふさわしい衣服の用意等が女の頭に浮かんだが、何一つ手につかないまま、日にちだけが過ぎる。

 

ある日、女は亡くなった母が、女の入学式や卒業式の折にいつも着ていた空色の色無地を思い出した。

 

箪笥の奥にしまわれていた色無地を出すと、襟や裾に少し汚れがあったが、着ることは出来そうなのだ。

 

色無地を広げて羽織ると、女は自分が美しかった母に少し似てきたように感じる。

 

その瞬間、従妹の娘の門出を祝う気持ちとまったく別の気持ちが、女の中で動きはじめた。

 

女が思いを寄せながら、思いを告げることが出来ずにいる男の姿が……。

 

その日から、女はテキパキと結婚式参列の準備を始めた。

 

和装用アップスタイルや着付けが上手いと評判の美容師に髪や着付けを依頼し、お祝いも用意したのだ。

 

結婚式の朝、女はいつも無造作に束ねている長い髪を、和装向きのアップスタイルに結い上げてもらい、母の空色の色無地を着付けてもらう。

 

女が華やかなローズの口紅をつけると、別人のように艶やかに。

 

母の色無地を羽織った時以来、女の頭から従妹の娘のことは申し訳ないほど抜け落ちている。

 

従妹の娘の結婚式は、心のこもったとても良い式だった。

 

だが、女の心は男のことでいっぱいだった。

 

結婚式が終わると、女はタクシーをひろって行き先を告げた。自分の家ではなく、男の家の場所を。

 

女は思った。

 

「その時が来たのだ」と。

 

タクシーを降りると、着物の裾を気にしながら、早足で男の家に向かう。

 

男に母の色無地を着た自分を見て欲しいと思った。

 

そして、男に告げよう。

 

「ずっと好きでした」と。

 

 

(完)

 

 

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京都在住セラピスト作家:村川久夢

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