香りは記憶とダイレクトに結びついていますね。蚊取り線香の香りは夏を、金木犀の香りは秋を、灯油を焚く香りは冬を、沈丁花の香りは春、を。香りは過去のワンシーンを鮮明に思い起こさせます。
私が幼い頃、母が物干しの片隅に白百合を育ていました。西日がカンカン照りの狭い物干しで、小さな植木鉢に植えてある白百合は、お世辞にも立派と言えない貧相な白百合でした。私は清楚な白百合の花、とりわけその香りが大好きで毎年咲くのを楽しみにしていたのを覚えています。
それからもずっと白百合は、私の好きなお花の1つでした。百合の香をかぐと心が落ち着くのを感じました。


ところが私の白百合へのイメージを覆す大事件が起こったのです。
夫の急逝です。
夫の葬儀には、たくさんの方が供花して下さいました。供花には高価な大量の白百合が使われていました。葬儀場は白っぽい花、白百合や白菊で埋め尽くされ、白百合の香が強く漂っていたのです。
葬儀後は頂いた花を自宅に持帰り、祭壇に供えました。部屋中が花だらけになり自宅でも白百合が強く香っていたのでした。

香は記憶とダイレクトに結びついています。
私はそれから百合の香をかぐと、夫の葬儀やその頃の苦しかった思いがフラッシュバックするようになってしまいました。花壇や鉢植えなどの花はそうでもないのに、切り花、特に白百合が全くダメになったのです。
夫の死から10年経って、私のダメージもかなり回復しました。お花が美しいと感じられるようにはなっては来ましたが、自分から進んで切り花を買い、その香を楽しむことをしなくなってしまいました。
それは仕方がないことかもしれません。死は人生の一大事件ですから、そのダメージは、そんなに簡単に消えないのでしょう。もっと歳月が流れたら、「大好きだった白百合の香がつらく感じた時期があったな」と自分を振り返れる日が来るのでしょうか?白百合に抵抗を感じたことすら忘れてしまうのでしょうか?
香りは、いとも簡単に私たちを過去の一時に連れ戻します。時には優しく、時には残酷に。

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