『刺繍のブラウス』~お母さんとの関係に悩むあなたへ~

こんにちは、村川久夢です。

私は「鬱・夫の死を克服した作家」です。

私の作品のテーマは、

「鬱や夫の死の克服」です。

でも、もう1つ大きなテーマがあります。

 

それは、母との関係です。

私は苦労の多い母を気づかい、

自分の本心をいつも圧し殺して

「いい子」として生きて来ました。

 

「いい子」として生きる

私の生きづらさやそこからの解放を

描くことも私の大きなテーマの1つです。

 

私の掌編小説『刺繍のブラウス』でも、

「良い母」と「いい子の娘」の関係を

描いています。

 

お母さんとの関係に悩む方に

是非読んで欲しいと思っています。

 

 

掌編小説『刺繍のブラウス』

晴子は前面いっぱいに花の刺繍をした

女児用のブラウスを手に取った。

箪笥の引き出しの底から出て来たもので、

母の秋江が幼い晴子のために

作ってくれたものだ。

少し食べこぼしのシミが残っている。

 

「お母さん、刺繍が得意だったよね」

亡き母がそこにいるかのように

思わず声がでた。

 

晴子の母秋江は大変家庭的な人で

家事全般をキチンとこなした。

その上、手芸が好きで

特に専門の学校に

行ったわけではないのに

婦人雑誌等を見て

上手に晴子の服を縫ったり、

編んだりすることを楽しみにしていた。

 

刺繍のブラウスを眺めながら、

このブラウスが完成して

初めて着た日のことを

晴子は苦々しく思い出した。

 

秋江は晴子がこのブラウスを着ると

吐き捨てるように言った。

 

「この子は何を着せても似合わないわね。

誰に似たんだろう!」

 

秋江はだれもが認める美人だったが、

晴子は秋江に似ていなかった。

 

秋江の嘆く言葉を聞いて、

晴子は自分がなにか大きな失敗を

しでかしたような戸惑いと悲しさを感じた。

 

美人で手作りが得意な母秋江は

晴子の自慢だった。

しかし、晴子にはいつも遠い人だった。

同じ家で母と子として暮らしていても、

晴子は秋江といると

他のどんな人といる時よりも緊張した。

 

それでも秋江に気に入られようと

晴子は必死だった。

秋江の言いつけは何でも

黙って大人しく聞いた。

お手伝いでもお使いでも自ら進んでやり、

自分の身の回りのことも

何でも自分でした。

 

まわりの大人がそんな晴子を褒めると、

「器量は良くないんですが、

大人しくて聞き分けが良いことだけが

取り柄なんですよ」

秋江は決まってそう言った。

 

晴子が一生懸命にお手伝いをしたり、

真面目に勉強して良い成績を取った時、

秋江は優しく微笑んで言った。

 

「晴ちゃん、頑張ったね」

 

晴子は秋江のその笑顔見たさに

懸命に頑張って、

「大人しくて聞き分けの良い子」になった。

 

晴子は勉強にも真面目に取組んだ。

努力の甲斐あって

晴子の成績はいつも良かった。

 

利口な晴子はすぐに

「器量は良くないが

聞き分けの良い真面目ないい子」

を演じることに慣れた。

 

晴子と秋江は絵に描いたような

良い母と娘に見えた。

 

 

しかし、

まわりの大人は誰も気づかなかったが、

晴子は得体の知れない

欠乏感に悩んでいた。

いつも何か満たされない

息苦しい生きづらい人生を

送って来たのだった。

 

晴子が秋江の作った刺繍のブラウスを

眺めていると、

いつの間にか父の剛が側に立っていた。

 

「お母さんが作ったブラウスかい?

お母さんは晴子のために

一生懸命に刺繍していたな。

晴子はお母さんの自慢だったからね」

 

「そうなの?!」

 

「お母さんはああいう人だったから、

口には出さなかったけれど、

頑張り屋の晴子を誇りに思っていたよ」

 

晴子は気持ちがグラグラするのを感じた。

 

「お母さんは実家が貧しくて

学歴がないことを卑下していたから、

晴子が大学に行った時は

本当に嬉しそうだったよ。

でも、お母さんは

『晴子は他の子が母親に甘えるように

私には甘えてくれない』

とよく寂しがっていたな・・・」

 

自分の気持ちを抑えつけて

素直に感情を出さない晴子だったが、

剛の言葉に

心の奥に抑えつけていた感情が

大きく揺れるのを感じた。

 

「どうして教えてくれなかったの、

お父さん!」

 

剛はいつもと違う晴子の様子に驚いたのか

黙って部屋を出ていった。

泣かない晴子の目から涙が溢れ出た。

 

「お母さん!

私お母さんがずっと恋しかったのよ!

どうして、言ってくれなかったの?!

私、ずっと苦しんでいたのよ!

いつもいい子でいるのはしんどかったよ!

寂しかったよ!お母さん!」

 

晴子は秋江の作ったブラウスが

秋江であるかのように訴えた。

 

「でもね、

お母さんが私を自慢に思ってくれて

とても嬉しいよ。お母さん!

私たちもっともっと

本音で話し合えたら良かったね。

そしたら私はもっと伸び伸び

楽しく生きられたのにね」

 

晴子に着せるために

一心にブラウスを刺繍する

美しい秋江の姿が晴子の心に浮かんだ。

 

秋江は優しく晴子に微笑んでいた。

 

・・・・・・・<完>・・・・・・・

 

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*鬱・夫の死を克服した作家&

インナーチャイルドカードセラピスト

村川久夢(むらかわ くむ)

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