「久夢ちゃんはお父さん似やね」と言われるのが昔はとても嫌だった。亡くなった母はかなり美人だったけれど、父は全然イケメンではなかった。特に思春期の頃は、父に似ていると言われるのが嫌だった。
50代になった頃から、「私、お父ちゃんに似ているな」と微笑ましく思えるようになった。振り返ると、父は年齢を重ねるにつれ、歳月に洗われたようだ。今は純粋な少年のような表情になった。
私が父を好きになれなかった頃、父は祖父母の介護や私と弟の教育費等、家計を支えるのに必死だった頃だ。それに、父には聴覚障害のある異父兄（私の伯父）、統合失調症を患う異母姉（私の伯母）がいた。祖父母を看取った後、父は伯父や伯母の介護もしていた。
その上、8歳年下の妻はパーキンソン病を患い、70代になっていた父が母の介護もした。祖父母の介護、伯父伯母の介護、母の介護は父の肩にかかるさぞや重い荷物だっただろうと思う。
妻を看取ると、娘婿が急逝し、頼りにしていた娘である私が、鬱病を悪化させてしまった。80代になっていた父は、今度は娘の世話をすることになった。
私はやっと元気になり、ブログを書き、エッセイ集を出版し、プロの作家を目指して活動するようになった。父はだんだん幼い少年のような表情になった。父が少年のようになったのは、肩の荷をやっとおろせたからだろう。
父は私や弟が父の世話をすると、
「すまんな～おおきに～」と言って手を合わす。
「お父ちゃん、私こそありがとう」と私は思う。
父とふたり暮らしになった時から、父と一緒によく写真を撮っている。自分でも本当に「私はお父ちゃんに似ているな」と思う。
私が94歳まで生きているかどうかわからないけれど、もし、生きていたら、私も父のように一生懸命善良に生きて、無邪気な少女のようなおばあさんになりたいと思う。
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