女の摩訶不思議!『須崎パラダイス』(芝木好子)~私の読書記録~

 

 

『洲崎パラダイス』は、社会の底辺で懸命に生きる女性たちの情愛、悲哀、逞しさを活き活きと描いています。生命力溢れる主人公蔦枝の動物的とも言える行動力に不思議な爽快さを感じ、生きると言うことを教えられた作品です。

 

✿少し毛色の違う作品✿

『洲崎パラダイス』は、芝木好子の代表作の一つです。短編集で「洲崎パラダイス」「黒い炎」「須崎界隈」「歓楽の町」「蝶になるまで」「洲崎の女」の六編が収録されています。

 

私が今までに読んだ芝木好子の作品は、芸能や工芸の世界に一途に生きる女性と、それら芸術の理解者の男性との恋愛を情感豊かに描いた作品が多かったのですが、『須崎パラダイス』は少し毛色が違っていました。

 

解説によると『洲崎パラダイス』に収録されている短編は、昭和29年から30年に集中的に書かれたものです。当時の洲崎には赤線と呼ばれた娼婦の街があり、そこが小説の舞台となっています。

 

今まで私が読んできた芝木好子の小説の舞台が、純粋培養の芸術の温室だとすれば、『洲崎パラダイス』は、寒風吹きすさぶ娑婆の世界と言う感じでしょうか。

 

✿表題作『須崎パラダイス』✿

表題作の『須崎パラダイス』は、男が会社をクビになり、駆け落ち同然で故郷を離れ、無一文で洲崎に流れてきた男女、義治と蔦枝が主人公です。

 

義治は投げやりで生きていく意欲すら失いかけていますが、蔦枝は「洲崎パラダイス」の飲み屋の女中にもぐり込み、店の常連で金回りのいい落合と積極的に親しくなるのです。

 

落合と外泊した蔦枝は、見違えるように垢抜けして綺麗になり、いい着物を着て帰って来ます。蔦枝は、貧乏はコリゴリだといい、金回りのいい落合に囲われるのをむしろ喜んでいるかのように見えます。

 

ところが、一緒に流れてきた義治が、訪ねてくると、義治と一緒にまた流れていってしまうのです。

 

お金の心配なく楽に暮らしたいと言う願望を全く隠そうとせず、なりふり構わず金回りのいい落合になびきながら、一緒に流れてきた義治を捨てきれない蔦枝の情に驚かされました。そして、同時に、見てくれなど気にせず、自分の思いのままに本能的に動ける蔦枝が爽快に感すらしました。

 

✿女の摩訶不思議✿

私も女なのにおかしな話ですが、『洲崎パラダイス』に登場する女性たちに、私は摩訶不思議な生物(いきもの)を見る様な気持ちなりました。また同時に男女関係の不思議さも感じました。

 

『須崎パラダイス』以前読んだ芝木好子作品の芸能・工芸分野に生きる女性たちに感情移入できます。しかし、『洲崎パラダイス』は、社会の底辺で懸命に生きる女性たちの情愛、悲哀、逞しさを活き活きと描いているのです。生命力溢れる蔦枝の動物的とも言える行動力に不思議な爽快さを感じました。理解できない摩訶不思議な力、それは、生き抜く力なのだと感じました。

 

【村川久夢ホームページ】

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