プランターを使って、プチトマト栽培にチャレンジしたことがありました。苗を植えると、トマトは順調に育ち、赤い実が綺麗に実ったのです。わくわくしながら、赤い実をもぎました。枝からトマトをもぎ取ると、プチップチッ心地よい感触がして、夏らしい香りが漂ったのでした。
不意に、幼い夏の日のことが、思い出されました。母方の祖母に連れられて、畑に夏野菜を取りに行った時のことを、急に思い出したのです。
母の実家は琵琶湖の干拓地にありました。私が幼い頃、田舎の家の周囲は、見渡す限り水田が広がっていました。遠くには琵琶湖の松林が見えて、なんとも郷愁にかられる、美しい風景でした。
祖母は、幼い私を連れて、なんば(とうもろこし)や茄子や胡瓜やトマトを収穫しに畑に出かけたのです。都会育ちの私は、笊に盛られて八百屋の店先に並ぶ野菜しか知りませんでした。祖母が畑で育てている野菜と、八百屋の野菜が一致せず、 とても不思議に思えたことを、今でも覚えています。
野菜が夏の陽を浴びて、大地から生み出されることを、その時、私は初めて知ったのです。その頃、私はトマトが大の苦手で、祖母が畑で収穫している、トマトの匂いに閉口したことも、一緒に思い出しました。それはかぎなれない「自然の香り」だったのです。
祖母と畑に行った、遠い夏の日を思い出しながら、プランターのプチトマトをもぐと、そこそこの量になりました。と言っても小さな笊に八分目程ですが(笑)熟れてはじけそうな、プチトマトを一つ、口に放り込んでみると、とても濃い味がしました。 幼い日に、母の実家で食べたトマトの味が、鮮やかに蘇りました。
おままごとのような、プランター栽培のプチトマトでしたが、それでも初収穫のプチトマトは、しっかりと夏の香りを漂わせ、私をしばし幼い夏の日に、誘ってくれました。その香りは、都会の小さな家に押し込められ、人形のように暮らしていた幼い私が、強烈に感じた「自然の香り」であり、「自由の香り」だったのです。
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