京都人が感じた『東京の粋』~権威より美意識

今回、三泊四日の東京旅行で、私は東京の魅力に触れられたように感じました。一番に感じたかったのは「東京の粋(いき)」でした。

「粋」の漢字は、東京(江戸)では「粋(いき)」と読み、関西(上方)では「粋(すい)」と読み、表す美意識も違っているのです。

上方の「粋」は、なんとなくわかるのですが、東京(江戸)の「粋」には触れたことがないので、「東京の粋」に関心を持っていたのです。

京都人が見た「東京の粋」について記した記事です。

 

東京三泊四日の初日、超方向音痴の私は徒歩2分で到着するはずのホテルに、1時間半さまよってもたどり着けませんでした。

疲れ果てて喫茶店でひと休みしたのです。喫茶店という呼び方がぴったりのお店で、ほとんどが常連さんのようでした。

コーヒーとクッキーが運ばれるのを待っていると、常連さんらしき年配の女性ふたりの会話が耳に入りました。

 

 

「とん、とん、とん」とリズミカルで歯切れのいい快い響きなんです。いかにも東京のことばに感じました。

京都のことばは、「と~ん、と~ん、と~~ん~」とことばを伸ばすことが特徴かもしれません。ま~るい、滑らかな感じなんです。

「本物の東京の下町ことばを聞けた」とちょっと感激でした。映画『寅さん』での会話が思い出されました。

 

喫茶店から見た風景

 

1時間半くらい街をさまよって、ヘトヘトでしたが、本物の下町ことばに触れられて「迷子になったおかげかも」と元気になれました。

 

翌日は、さすがに迷うことなく上野公園にたどり着き、東京国立博物館を見学したのです。

東京国立博物館でじっくり鑑賞したら、午後2時を過ぎていて、お腹がぐうぐうでした。

行きたいと思っていた東照宮第一売店を目指したのです。お店はなんともノスタルジーを感じる佇まいなんです。

  

東照宮第一売店

 

おでんライスと焼き鳥を注文すると、ほどなくおねえさんが運んできてくれました。おねえさんは、脇に白い円筒形のものをはさんでいます。彼女はちょっと照れたようにこう言ったのです。

 

 

「焼き鳥たべると、手がベトベトするからね」と言って、ウエットティッシュを二、三枚ひっぱり出して、私にくれたのです。脇にはさんでいたのはウエットティッシュでした。私がお礼をいうと、

「もう一枚いるかな」ともう一枚引き出してくれました。

そのちょっと照れたようなあっさり感が、本当に感じがいいのです。

東京の鰹だしがきいたおでんを頂いていると、常連さんとおねえさんが会話しているのが、聞こえてきました。

 

東照宮第一売店の店内

 

その日は快晴でしたが、寒い日でした。ビールとポテトチップスを注文した常連さんに、おねえさんがこう言っているのが聞こえてきました。

「知らないよ、風邪ひいたって」

「大丈夫だよ」

親しみや人情が溢れる会話をいつまでも聞いていたいと思ったほどでした。おねえさんの一見そっけない様子や照れが、なんとも江戸っ子という感じでした。粋ですよね。

 

実は、最終日に三越本店に行くのも楽しみにしていたのです。三越本店の呉服売り場で東京(江戸)の「粋」に触れられると思っていました。

 

三越本店の天女さま

 

7Fの特別食堂でお子様ランチプレートを頂いて、食堂から出ると、ちょうど振り袖特設会場が開かれていました。

「どんなんだろう~」と期待して会場に入ったんですが……。

そこには豪華な金糸銀糸でこれでもかというほど刺繍がほどこされた振り袖が展示されていました。

「ん? これが粋なの……」と頭に「?」マークがいくつも浮かんだのです。「まあ、特設会場だし」と思って呉服専門のフロアーに移動しました。

でも、「うわ~洗練されて粋!」と感じる着物がありません……。店員さんに「東京の『粋』を一番表しているような着物はどれですか?」と尋ねると、店員さんは、

「詳しい店員のところにお連れしますね」という答えが返ってきたのです。

「え? 前身は呉服のお店じゃないの?」と戸惑ってしまいました。

詳しいという店員に同じことを尋ねると、「粋? お客様のおっしゃることがよくわかりません」とそっけなく言われてしまいました。

「江戸小紋とか……」と私が口ごもると、「小紋、ありますよ。これなんか人間国宝の作家さんの作品です」と反物を広げてくれたのですが……。

私に鑑賞眼がないのか、とても「粋」には感じられませんでした。

彼女は、私が買いそうもない一見客だと最初から思っていたようで、さっさとどこかに行ってしまったのです。フロアーに呉服を見ている客はいないのに。

天下の三越本店呉服売り場の責任者っぽい人が、「江戸の粋」がわからないことがけっこうショックでした。それに、たとえ人間国宝の作品でも、私にはいいと思えませんでした。

 

実は、呉服売り場に行く前に、エスカレーターを降りたところで、「天草更紗・染元・野のや」さんがフェアをされていて、更紗の名古屋帯に思わず目が行ったのです。

ペルシャを感じるような柄や深い青、緑、白の色合いが、私にはとても「粋」に感じました。でも、天草更紗ということは、東京(江戸)ではないですよね。

私が見とれていると、作家さんが話かけてくれました。とても感じのいい人で、「ペルシャを感じるし、色合いが素敵ですね」というと、天草更紗のことや一点ものであることを熱心に話してくれました。

「でも、着物は着ないしな」と思って、小物の展示を見ていると、似た柄で赤が基調になっているポーチがあったのです!

 

天草更紗のポーチ

 

うれしくなって、即、買いました。

しばらく作家さんと楽しくおしゃべりしていましたが、他の人が作家さんに尋ねたそうにしていたので、お礼を言って、その場を去ったのです。

名刺をもらおうかと思って、フェアスペースに戻ると、待っていたお客さんが熱心に話しているので、諦めて帰りました。

残念に思っていましたが、京都に帰って、バッグを開けると中にミニパンフレットが入っていて、作家さんのFacebookやInstagramのアカウントも書かれていたのです。

うれしくて、コメントしました。

 

東京三泊四日は楽しいことばかりでしたが、唯一もやもやしたのは、三越本店呉服売り場の店員の対応でした。

斬新な発想で呉服を販売して、成功した越後屋の精神は、受け継がれなかったのかと感じました。

越後屋は呉服販売で財をなし、両替商としても成功して、今の三井財閥を築いたのです。

美意識より権威や利益を優先する三越本店に来ることはもうないだろうなと思いました。

考えてみると「粋」は庶民から生まれたものなのでしょう。

後に財閥になった越後屋から生まれた三越本店の店員が、美意識より権威を尊重するのは、当然といえば当然かもしれません。

私の主観だと思いますが、「江戸の粋」も「上方の粋」も結局は美意識だと感じました。

(京都人が感じた『東京の粋』~権威より美意識:村川久夢)

 


 

 

 

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