いい人仮面とほどほど星人~何事もほどほどが一番なの?~

 

 

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「いい人仮面、絵を描いているのかい」

「あ、ほどほど星人、森があまりに綺麗だったからね。クレヨンで描いているんだ」

 

いい人仮面は、スケッチブックに描いた森の絵をほどほど星人に見せました。絵は上手ではありませんでしたが、いい人仮面が森の美しさに触れることができた喜びが溢れていたのでした。不思議な魅力があったのです。

 

ほどほど星人は、平静な顔を保っていましたが、内心は面白くありませんでした。いい人だけど、恥ずかしがり屋のいい人仮面の絵は、たいしたことはないだろうと思っていたのです。

 

—ぼくはこんなに魅力的に描けないな……。

ほどほど星人は、悔しいけれど、いい人仮面の絵が素敵なことがわかりました。

 

そこへいい人仮面の友だちのまっすぐ星人がやって来て言ったのです。

「いい人仮面、素敵な絵だね~僕にも一枚描いてくれないかい」

「ええ! そうかい。ありがとう、まっすぐ星人! いいよ、ちょっと待っていてね」

 

いい人仮面は、うれしそうにスラスラと森の絵を描いてまっすぐ星人にあげたのでした。ほどほど星人は笑顔でそれを見ていましたが、モヤモヤした気持ちを一生懸命に抑えていたのです。

   

しばらくするとまっすぐ星人の友だちが来て言いました。

   

「いい人仮面、まっすぐ星人にあげた絵をぼくにも描いて!」

「ああ、いいよ。確か、きみはまっすぐ星人の友だちだね」

いい人仮面は、ルンルンで絵を描いて、まっすぐ星人の友だちにも絵をあげたのでした。

  

相変わらず冷静を装っていたほどほど星人は、

「いい人仮面、絵はいい趣味だよ。でもほどほどにね」

と言うと帰って行きました。

   

—そうだよな。ぼくは限度がなくて、ほどほどってことがわからないからな……。

いい人仮面はシュンとなってしまったのでした。

   

翌日、まっすぐ星人の友だちの友だちが、いい人仮面のところにやって来て、「僕にも森の絵を描いて!」と言いました。それから次々、「絵を描いて」と言う人が現れたのです。

   

「素敵な絵だね! 部屋に飾るよ~」

「眺めていると気持ちが落ち着くよ」

「絵のことはわからないけれど、ぼくはいい人仮面の絵が大好きだよ」

みんな大喜びで帰って行きました。

   

いい人仮面はすっかり嬉しくなって、昼間に描ききれなかった絵を夜が更けるまで描き続けました。するとまたそこへほどほど星人が冷静な表情を作ってやってきたのです。

   

「ほどほど星人、きみも森の絵がほしいのかい?」

「いや、僕は遠慮するよ。人を喜ばせるのはいいことだ。でもね、ほどほどってことを忘れちゃダメだよ」

と言うとすぐに、ほどほど星人は帰って行きました。

  

—ぼくはバカなお人好しなんだ……。

そう思えて、いい人仮面はシュンとした気持ちにまたなりました。

   

いい人仮面の知り合いみんなが森の絵を描いてもらった頃、いい人仮面は森の思い出や絵を喜んでくれた友だちの笑顔をポエムに書いたのでした。いい人仮面がポエムを朗読していると、

「いい人仮面、素敵なポエムだね」

「あ、せんさい星人。森の思い出をポエムにしたんだ」

「ポエムを紙に書き写して、僕にくれないか?」と言いました。

  

ポエムを書くことが何より好きないい人仮面は、大喜びで森の思い出のポエムを紙に書き写し、せんさい星人にあげました。せんさい星人は頬を赤らめて、ポエムを朗読したのです。またしばらくすると、せんさい星人のお友だちが、いい人仮面のポエムが欲しいと言って現れたのです。

   

「いい人仮面のポエムを朗読すると癒される」

「こころが落ち着く」

「イライラしなくなった」

   

そのようにいい人仮面のポエムが評判になり、次々とポエムが欲しいと言う人が現れました。自分のポエムを好きになってもらったいい人仮面は、大喜びでポエムを書き写しました。いい人仮面は、嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。手が痛くなってもポエムを書き写し続けたのです。いい人仮面は、とても幸せでした。

    

そこへまた、善人面でほどほど星人がやって来ました。

   

「いい人仮面、何をやっているんだい?」

「あ! ほどほど星人! みんながぼくのポエムを『素敵だね』と言ってくれたんだ! ぼくはうれしくて……」

「そうかいポエムを作ることは良いことだよ。でも、なにごとも『ほどほど』ってことが大事だよ。限度がないのは考えものだよ、いい人仮面」

  

その時、さすがのいい人仮面もムッとした気持ちになりました。

—どうしてほどほど星人はぼくの絵やポエムを好きになってくれないんだろう。なぜ、いつも「ほどほど」って言うんだろう……。

森の絵を喜んでくれた友だちの笑顔、森の思い出のポエムを好きになって、朗読していた友だちの顔が浮かんだのです。

    

一方、ほどほど星人は、冷静に忠告したふりをしました。でも、みんながいい人仮面の絵やポエムに感動していたことや、いい人仮面の幸せそうな表情が我慢ならなかったのです。

   

「ほどほど星人! ぼくは確かに限度がないよ、でもね……」

「なんだよ『ほどほど』もわからないくせに! ぼくはきみのためを思って言ってあげているんだ!」

「でも僕が『ほどほど』だったら、森の絵もポエムも、あんなにお友だちを喜ばせなかったよ」

「黙れ! 『ほどほど』』の大切さがわからないくせに!」

「きみの方こそ、人の楽しい気持ちに水をさすのは、『ほどほど』にしたらどうなんだい!

    

いつもは穏やかないい人仮面も冷静を装っているほどほど星人も、興奮して、ことばの調子がきつくなっていました。

    

「すぐに限度を失くすくせに! ぼくはほどほどってことがわかっているから、一度も失敗したことがないんだぞ!」

「失敗したことがなくても、誰かを一度だって喜ばせたことがあるのかい!」

   

ほどほど星人は、よほど痛いところをつかれたのか、カンカンに怒り出したのです。

「黙れ! 黙れ! 『ほどほど』に生きるのが一番なんだぞ!」

と言って、悔し涙を流しながら、帰って行ったのでした。

    

しばらくして興奮が治まると、いい人仮面はほどほど星人が哀れに感じました。ほどほど星人は、いつも冷静で失敗しませんが、大好きなことも何かに夢中になったこともないのです。

   

「ぼくは、他の人の意見に流されず、好きなポエムや絵をかきつづけていくぞ!」

いい人仮面は、心静かに誓ったのでした。

   

<オシマイ>

 

 

京都在住セラピスト作家:村川久夢(むらかわくむ)

 

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