冷や汗モノの間違いメール

昔、私は自宅があるK市から

電車で2時間ほどの

H市に住んでいる人とつき合っていた。

SNSで知り合った人だった。

 

けっこう長い間、

メッセージの交換を重ねて

ついに彼とリアルで会うことになり、

私の方が会いに行くことになった。

 

恥ずかしい話だが、

私はK市からほとんど出たことがなく、

電車に乗ることもほとんどなかった。

 

その日、H駅で彼と待ち合わせて、

ランチをして、

H市の観光名所を見学して、

海岸を散歩した。

 

夕食は彼の行きつけの居酒屋で、

美味しい魚料理を頂いて、

ちょっとお酒を飲んで、

私は帰ることになった。

 

彼がH駅まで送って来てくれた。

とんでもない世間知らずの私を心配して、

彼は券売機で乗車券を買って、

私の乗車時間やホームを確認した後、

改札まで付いて来てくれた。

 

私が自動改札を通るのを確認して、

ホームに移動するのを

改札越しにずっと見ていてくれた。

その頃、周りには

しっかりしているふりをしていた私は、

人にこんなに

親切にしてもらったことがなかった。

 

ものすごく感激していた。

 

ホームで電車を待つ間、

私は誰かに感激している気持ちを

伝えたくなった。

と言うかちょっとのろけてみたくなった。

 

その日の楽しかったことや、

彼が乗車券を買って

改札で見送ってくれたこと等を

親しい友人にメールした。

すぐに返信が来た。

 

見ると、

「送り先、間違ってますよ~」

と書かれていた!

 

なんと私は、

おのろけメールを彼に送っていたのだ!

ものすごく恥ずかしかった。

でも後に、このメールのことを

彼に尋ねると、

 

「『楽しんでくれたんやな~』

と思って嬉しかった」と言ってくれた。

 

その後、彼とは喧嘩したわけでもないのに、

何となく疎遠になり自然消滅してしまった。

でも今でもH行きの電車を見ると

「ああこの電車はHに行くんやな~」

と感慨深く思う。

 

そして冷や汗ものの間違いメールを

思い出すのだ。

 

文字通り冷や汗がでるような恥ずかしさと

ほのぼのした懐かしさを感じるのだった。

 

 

・・・・・・・<完>・・・・・・・・