真由は、古いオードトワレの瓶を見つけた。20年前、ローマ旅行の折に買い求め、そのまま忘れていたオードトワレだ。洒落た瓶の蓋を開け、オードトワレをつけると、上品な大人の香りがした。
深く香りを吸い込んだ時、真由は突然、不思議な感覚にとらわれた。柔らかな光に包まれて、体が中に浮いたのだ。快い風が吹いて、真由の髪がサラサラとなびくのを感じた。「アラジンと魔法のランプ」に出てくる魔法の絨毯にのるとこんな気分なのだろうか?
<ローマの空港>
気がつくと、真由は、どこか外国の空港らしい場所にいた。真由は、20年前の夏、ローマに行ったことがあった。格安ツアーに参加したのだった。その時の光景がかすかに蘇った。
「もしかして、ここはローマなの?」真由は訝しんだ。あたりを見回すと、同じ格安ツアーで来たらしい日本人がたくさんいた。添乗員らしい女性が何度も「スリに気をつけて下さい」と念を押している。
「どういうことなんだろう?ここはローマらしい、でも今はいつなんだろう?」真由は混乱した。ふとガラスに写った自分の姿を見て、仰天した。そこにはベリーショートの髪をした20代の若い真由が写っていたのだ!
<道連れ>
ローマでの初日、「なんだかよくわからないけれど、せっかくローマに来たのだ。バチカン美術館に行こう」と思ったのだ。
地下鉄の駅でバチカン行きの切符を買おうとしけれど、自動券売機の操作の仕方がよくわからない。真由の側には、同じようにバチカン行きの切符を買うのに手間取っている一人の日本人らしい青年がいた。
どうやら同じ格安ツアーで日本から来た青年らしい。そんな気安さから、真由は青年と一緒にバチカン美術館に行くことになった。青年の名前は「ヒロキ」と言った。
<イケメン>
バチカン美術館は素晴らしい!真由とヒロキは、バチカン美術館の迫力に魅了され、圧倒され、軽い興奮状態になった。同じ感動を経験したからなのか、真由はヒロキに不思議な親しさを感じた。バチカン美術館見学をすませると、サン・ピエトロ大聖堂のクーポラに上り、その眺望を楽しんだ。真由は子どものようにはしゃいでいる自分を感じた。
それにヒロキは、切れ長の目が涼しいなかなかのイケメンなのだ。真由が小柄なこともあるけれど、並んで歩くと、ヒロキの背の高さが目立つ。それに、ヒロキのうなじが美しい。外見は20代だけれど、中身は中年の真由は、ヒロキの若い美しさにドキドキするのを感じた。
真由はヒロキと恋人気取りで、ローマの街の人が行く庶民的なレストランでパスタやピザに舌鼓を打ち、コロッセオやフォロ・ロマーノ、トレビの泉、「ローマの休日」で有名なスペイン広場など、観光地を巡った。
真由は、ごく普通のローマの人々が生活する街の様子も面白く感じた。露天やスーパーマーケットで見慣れない野菜や食品を眺めるのも楽しい。そんな真由を不思議そうに眺めながら、ヒロキも同じように素顔のローマを楽しんでいた。
<オードトワレ>
「真由は、プラダとかエトロとか、イタリアのファッションブランドに興味はないの?せっかくローマに来たのだから、思い出に何か買えば?ツアーの女の子の中には、ブランド買いたいから、ツアーに付いている美術館見学をキャンセルした子もいたよ。真由は何が欲しいの?」
真由はヒロキの言葉に納得し、思い出の品を買う気になった。ファッションブランドに興味はないけれど、唯一、興味があるのはフレグランスだ。
思い出の品を買うためにデパートの化粧品売り場に行った時、真由は、あのオードトワレを見つけた。ドレスの裾をつまみ上げたような半円形の瓶に入ったあのオードトワレだ。その香りは、20代の真由には、少し大人過ぎたが、真由は瓶を開けて耳の後ろ側につけた。
その後、二人はお土産を買った。お土産を買うと急に帰国が二人の意識にのぼった。真由はヒロキとの別れる日が近いのだと思うと切なかった。その思いはヒロキも同じようだった。
<中洲のバール>
旅の最終日、ヒロキと真由は、紀元前には治療所があったというテベレ川の中洲ティベリーナ島を訪れた。中洲にある雰囲気のいいバールでワインを飲んだ。ワインは二人を饒舌にした。話しても話しても話し足りない気がした。話が途切れて、分かれる時間になるのも怖かった。
バールを出ると、気持ちの良い川風が吹いていた。真由の前を歩いていたヒロキが、立ち止まって振り返り、軽く真由の肩を抱いた。ヒロキは、真由の耳の後ろ側で深く息を吸った。
「いい香りだね」
真由が軽くうなづくと、ヒロキは腕の力を強めた。
「真由、別れたくないよ」
真由はヒロキの腕の中でオードトワレが強く香るのを感じた。
その時、真由は再び不思議な感覚にとらわれた。柔らかな光に包まれて、体が中に浮いた。快い風が吹いて真由の髪がサラサラとなびいた。
<オードトワレが運んだ恋>
気がつくと真由は、自分の部屋で呆然と立っていた。あれは夢だったのだろうか?もうヒロキには会えないのだろうか?ヒロキと別れたのだと悟ると物凄く切なかった。ヒロキと過ごしたローマでの日々が蘇るのが辛くさえあった。もうヒロキに会えないという現実を認めるのが怖かった。
それにしてもあれは何だったのだろう?オードトワレに宿った香りの女神様のいたずらだったのだろうか?いたずらにしては、ずいぶん罪作りないたずらだ!
真由がもう一度オードトワレの瓶を開けると、上品な大人の香りがした。真由には、ヒロキの体の温もりがまだ残っているような気がした。時空を超えてオードトワレが運んだ恋だった。
<完>
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可愛くてチヤホヤされる人を妬んでしまう…。誰にでも優しくできる人にイライラする…。自分を大胆に表現できる人に反感を覚える…。「こんな私ってイヤ~~!」と思ったことないですか???
私はそんなふうに思って悩んだ時期がありました。自分を嫌う気持って、強いマイナスパワーがあって、疲れてしまうんですよね…。今日は嫉妬に悩む自分をどのように受け入れるかを一緒に考えてみましょう。
<ネガティブな感情を持ったっていいじゃない>
可愛くてチヤホヤされる人を妬んでしまう。誰にでも優しくできる人にイライラする。自分を大胆に表現できる人に反感を覚える。こういう気持ちは、誰にでも起こる気持ちだと思うのですよね。ごく普通の感情です。
なのに、「妬む・イライラする・反感を持つ」そんな自分を嫌悪して責めてしまうと、
妬む・イライラする・反感を感じる
↓
そんな自分を責める
↓
自分を責めるのに疲れる
↓
なおさら妬んでイライラして反感を持つ
大変なネガティブ連鎖です。
可愛くてチヤホヤされている人や誰にでも優しい人や自己表現の上手な人を中傷したり、攻撃したりしていなかったら、「妬んだり、イライラしたり、反感をおぼえても別にいいじゃない!」って自分に言ってあげて下さい。
「ネガティブな感情を持ってはダメだ!」「ネガティブな自分が許せない!」とかいう気持ちを手放して下さいね。なんかそれだけでホッとしますよ。
<強い感情の裏側にある気持ちを知る>
「妬む・イライラする・反感を感じる」このような強い感情の裏側に何があるでしょうね?どうでもいいことや無関心なことに、強い感情は起こりませんよね?
「可愛くてチヤホヤされる人を妬んでしまう。誰にでも優しくできる人にイライラする。自分を大胆に表現できる人に反感を覚える」という現象の裏側には、こんなあなたが見えてきませんか?
「チヤホヤされたいけれどできない私」「優しくしたいけれどできない私」「大胆に自己表現したいけれどできない私」
ネガティブ感情の裏側に「やってみたいけれど出来ない私」がいませんか?
「ネガティブな感情を持ってもいいじゃない」と自分を受け入れてあげると、自分の心の奥底にある本心が見えてきますよ。大切なあなたの本心を抑えつけないで、あなたの本心が何を言いたいかをまず聞いてあげましょう。
<ネガティブな私も私>
「やってみたいけれど出来ない私」ってあまり認めたくないですよね。でも、「ああ、そうだったのね」と受け入れましょう。そしてそんな自分の気持ちの中には
「チヤホヤされたい」「人に優しくしたい」「大胆に自己表現したい」と言う気持ちがあることに目を向けましょう。そんな気持ちに素直になってあげて下さい。
そしてまた、そうできない私には「ああ、そうだったのね。できなかったのね。それはなぜだったの?」と優しく尋ねてあげて下さい。ネガティブな私も私ですもの優しく受け入れてあげて下さい。素直になれなくてストレスを感じていた自分の姿が見えてきますよ。
<本心に素直になってみる>
無理しなくていいんです。ちょっとずつでいいんです。でも、
「チヤホヤされたい」「人に優しくしたい」「大胆に自己表現したい」という自分の本心に素直になってみましょう。
いきなりチヤホヤされることはなくても、自分を大切に扱っていると、周りもあなたを大切に扱ってくれるようになりますよ。
「人に優しくなんて私のキャラじゃない!」と思っても、誰かを助けてあげたいという感情が動いた時には、その感情に素直になって人に親切にしてみましょう。大胆に自己表現はできなくても、少しずつ自分の思うことを人に伝えてみましょう。
自分の本心を抑えつけて蓋をしていた時は、激しいネガティブ感情に悩んだのに、本心に素直になると、自分がネガティブ感情から解き放されて楽になっているのを感じますよ。
いつの間にかあなたは、人に大切に扱われ、人に優しくできて、自分をちゃんと表現できるようになっていますよ。
ネガティブな私も私ですものね。無理やり抑え込んで蓋をしないで、ネガティブな私の言い分も聞いてあげて下さいね。
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