「彼の香り」~恋の風景その1~

会議が終わって外に出ると、

もうとっくに日は暮れていた。

身体がコチコチになり、

頭ばかりが疲れていた。

 

いつものことだが、

会議の後の割り切れない苛立ちに、

心がギスギスと音を立てるのを感じた。

 

それでも外に出て一人になると、

流石にほっとした。

一刻も早く家に帰りたかった。

今日は夫の方が、

私より先に帰っているだろう。

 

大通りを曲がるとわが家の窓に

灯りが点いているのが見えた。

黙って家に入ると、

夫はリビングのいつもの場所に座って、

新聞を読んでいた。

 

夫だって、職場で苛立つこともあるだろう、

私以上に

割り切れなさを感じることもあるだろう。

でも、夫の横顔には、

そんな苛立ちの影は見えない。

 

肩のあたりから中年の余裕が、

溢れ出ているように感じた。

 

結婚して三年、子どもがいないせいか、

八歳年上の夫といると、

私は自分が幼い子どもになったように

感じることが多かった。

 

私は黙って夫の側に座った。

 

「お帰り、どうした?」

 

私は、黙ったまま夫に寄り掛かった。

コロンと煙草の匂いがした。

 

彼の香りに包まれると

不思議に心が静まった。

話しを聞いて欲しくて、

あれほど帰りを急いだことが嘘のように

静かな気持ちになった。

 

「どうした?」
夫は、もう一度同じことを聞いた。

 

「このコロンいい香りね、私好きだわ」

 

夫は笑って、私の肩を抱いた。

私は大きく息を吸い込み、

彼の香りを胸に満たした。

会議の苛立ちはすっかり消えていた。

 

 

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*鬱・夫の死を克服した作家&

インナーチャイルドカードセラピスト

村川久夢(むらかわ くむ)

 

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