甘栗が運んだ昭和の記憶〜京都駅から米原駅へ国鉄小旅行

▶ひとくちのむき栗が連れてきた、昭和の「米原」への小さな旅

先日、美容室の隣にあるお酒と食料品のお店「ケント」に立ち寄りました。


お菓子などがとてもお買い得なので、何気なく「むき栗」をひと袋、購入したのです。

家に帰って、おやつにひとつ、口に放り込んだ瞬間――。


「✨️あぁ、懐かしい。この味……✨️」


胸の奥がキュンとするような、懐かしい記憶の扉がパッと開きました。

私の母の実家は、滋賀県の米原市(当時は坂田郡米原町)にありました。


周りは見渡す限りの田んぼに囲まれた、ものすごい田舎の農家。


一方、私たちの家は京都で靴を作る仕事を営んでいたため、普段はまとまった休みがほとんどありませんでした。

けれど、お盆の時期だけは特別。


母、父、それときょうだいの家族4人で、滋賀の田舎へと里帰りするのが我が家の恒例行事だったのです。



▶天井の扇風機と冷凍みかん

今でこそ、京都から米原なんて新快速に乗れば1時間弱で着いてしまいます。


けれど当時はまだ国鉄の時代。各駅停車に揺られていく道中は、子どもの私にとって、まるで果てしない大冒険のように長く感じられました。

子どもの頃、他にはどこにも旅行に連れて行ってもらった記憶がありません。


だからこそ、あの各駅停車の電車のなかの風景は、私の心にとても強く焼き付いています。

通路を挟んで向かい合わせに固定された、懐かしい青い座席の「ボックスシート」。


天井を見上げれば、青い羽根の扇風機がまわっていて、窓から入る風をブォーーンとかき混ぜていました。

そして、狭い座席の間の通路を、大きなお盆を抱えた売り子さんがゆっくりと歩いて売りに来るのです。

ネットに入った5個入りのゆで卵。そして――夏なのに、なぜか売られていた「みかん」。


そう、あれはカチコチに凍った、あの懐かしい「冷凍みかん」でした。

父は天津甘栗が大好きで、通る売り子さんからいつも奮発して買ってくれました。


窓の下にある、ほんのちょっとした物を置くための小さなスペース(窓枠のミニテーブル)。


そこに母が剥いてくれた甘栗やゆで卵、そして少しずつ溶けてシャリシャリになった冷凍みかんを置いて。


「おいしいなぁ、おいしいなぁ」


家族4人で膝を突き合わせながら、その狭いスペースから代わる代わる取って食べたあの味は、格別のものがありました。

ガタゴトと走る列車の窓から外を眺めながら、小さかった私は父親の袖を引っぱって、こんな質問をしたのを今でもよく覚えています。


「お父ちゃん、なんであの電信柱は走ってるん?」


そんな私を、父はどんな顔で見つめていたのでしょう。

 

 




▶赤レンガの塔が見えたらもうすぐ米原

京都から米原まで、ひたすら各駅停車。
子どもにとっては、いい加減サヨナラしたくなるほど退屈で、うんざりする長さでした。


窓の外には、飽きるほどの田んぼの緑がどこまでも続いています。

そんな景色のなかに、米原駅が近づいてくると、ふっと姿を現す建物がありました。


それは、ひろい田んぼの中にぽつんと佇む、赤レンガ造りの円錐形の塔。


母が「陸軍の砲弾庫やったらしい」と教えてくれた、不思議な建物です。


「あ、あの赤レンガが見えた。もうすぐ米原や!」


その建物が見えた瞬間の、あのホッとした嬉しさは、今でも輪郭がくっきりと残っています。

あの無邪気だった幼い日の記憶。


実は10年ほど前、おじに連れられて、もう家自体はなくなってしまったその米原の土地を一度だけ訪ねたことがあります。

驚いたことに、かつてあれほど私の目を包み込んでいた「ひさと続く田んぼ」の景色は、どこにもありませんでした。


そこにあったのは、ひたすら立ち並ぶ、新しい家、家、家…。


時代の流れとともに、思い出の景色はすっかり見る影もなくなってしまっていたけれど。

けれど、今日食べたむき栗の味は、あの天井で扇風機が回るボックスシートの国鉄の車内と両親の笑顔を、少しも色褪せないまま私の心に連れ戻してくれたのです。

京都在住セラピスト作家:村川久夢

 

 

 

 

 

 

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