昨日は無事にnote創作大賞への応募でき、ホッとした一日でした。
今日は、月一回の心療内科の診察日。
あいにくの雨で、少し頭が痛かったですが、20年ほどお世話になっている主治医の先生のもとへ向かいました。
私の場合は幸い病状も落ち着いているためか、いつも診察室では「最近どう過ごしているか」といった世間話を交えたやり取りをしています。
今日、先生にこんなお話をしてみました。
「この前の台風で鴨川が氾濫寸前になった翌日、水が引いた河川敷に上流から流されたオオサンショウウオがたくさん発見されたそうですね」

すると先生は「へえ、そうかい!」と目を丸くされ、ご自身が育った岐阜県の長良川での子ども時代の思い出を語ってくださいました。
幼い頃、川で大きな生き物を見つけて友達と「ワニや!」と大騒ぎしたけれど、今思えばあれはオオサンショウウオだったのかもしれない、と懐かしそうに目を細めていらっしゃいました。
そこから話題は、鴨川の環境の変化へと移りました。
「オオサンショウウオって、本当に綺麗な水でないと生きられないんですよね。
実は私が子どもの頃、1960年代後半から70年代初頭の小学校3年生くらいの記憶では、当時の鴨川は上流の工場排水などでものすごく汚染されていたんです。
だから、今のようにオオサンショウウオが住めるほど綺麗な川になるなんて、昔は思いもしませんでした」
私がそう語ると、先生からは意外な返事が返ってきたのです。
「僕は50年ほど前に京都に来たけれど、鴨川が汚染されて汚いなんて、一度も思ったことがないよ」
「えっ、本当ですか?」とお互いに驚き、診察室の中で当時の「年代の答え合わせ」が始まりました。
先生が京都に来られたのは、私が中学生になるかならないかという頃。どうして数年の間に、これほど受け止め方に違いがあったのでしょうか。
私が小学校3年生の頃に見ていた鴨川は、「少し濁っている」なんていう可愛いものではありませんでした。
上流にある工場の影響だったのか、日によって赤っぽいグレー、青っぽいグレー、あるいはどんよりとしたネズミ色へとエグい色に濁り、化学染料のきつい悪臭が立ち込めていました。
そこには情緒なんてかけらもありません。1961年生まれの私は、幼心に「世界は公害で滅びるんだ」と真剣に恐怖を感じていたほどです。
その死にかけた川が、なぜ今のような美しい姿を取り戻せたのか。
それは、行政が自発的に厳しい基準を作って綺麗にしたからではありませんでした。
始まりは、荒れ果てた鴨川の河川敷を、たった一人で掃除し始めた市民の方がいらっしゃったことです。
その姿に共感した人々が次々と加わり、やがて「鴨川を綺麗にしよう」という大きな市民運動へと発展していきました。
その草の根の熱意が行政を動かし、少しずつ環境が改善され、先生が京都に来られた50年前には、かつての悪臭が嘘のような川へと再生を遂げていたのです。
一人の小さな一歩が周りの人々を巻き込み、社会や自然さえも変えていく――。
「人はそこまでバカじゃないんだ」と思えます。
診察室での先生との何気ない思い出話から、かつての幼い私の恐怖と、それを覆してくれた名もなき人々の美しい活動の歴史に思いを馳せる、そんな深い雨の一日となりました。
京都在住セラピスト作家:村川久夢
▶note創作大賞応募作品

*『凍る声、溶ける弦』あらすじ*
元中学教師の雨水四季は、還暦を機にボイストレーニングを始めた。ある日、実力派ギタリストの伊達颯太朗と出会い、彼の奏でる圧倒的な弦の響きに心を揺さぶられる。
共に音楽を紡ぐなかで、四季は幼少期から母のことばに縛られ、「人の顔色を必要以上に気にする」深い傷を抱えていることを告白。一方の颯太朗もまた、実母からの壮絶な虐待という過去に苦しんでいた。
愛されない存在だと思い込み、他者と深く関わることを恐れてきた二人。大晦日、因縁の町家を舞台に、運命のお披露目ライブが幕を開ける。
二人の傷ついた魂が音楽を通じて重なり合い、奇跡の共鳴(レゾナンス)を果たす大人の長編恋愛小説。
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