『一緒に食べていかない?』が国も宗教も思想も越える~共食の力

「バックステージアメリカ」で聞いた加藤喜之先生のアメリカ南部料理「ザリガニ料理」の話。とても印象に残り、美味しそうでした。

「え? ザリガニ料理……」と思いましたか?

アメリカ南部では、白人富裕層が「食べる価値がない」として捨てて見向きもしなかった食材、豚の足や耳、内臓、そして川にいるザリガニもそうでした。

肉を買えない貧しい黒人たちが独自のスパイスやハーブ、そして知恵を絞って、極上のごちそうへと変えたのです。

加藤先生が学生時代、ボランティアで南部の貧困地域に行ったとき、おばちゃんたちが、せめてものお礼にと作ったのが、ザリガニ料理だったそうです。

 

 

「シャコか小さなエビのようで、くさみもクセもなく、何十匹でも食べられるほど美味しかった」と加藤先生が言われていました。

振る舞った黒人のおばちゃんたちが

Don’t be bashful.

と声をかけてくれたそうです。

黒人のおばちゃんたちの”Don’t be bashful.”は、「遠慮せんときや~」という関西のおばちゃんのことばのように感じました。

貧しくてもご馳走を振る舞う人情を感じて、人と人のつながりから温かいものに触れたように思いました。

 

この話から、ふと思い出したのがジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』の一場面です。

大恐慌時代や砂嵐で故郷を追われ、カリフォルニアに向け苦難の旅を続ける人々。彼らが国営キャンプに身を寄せていたときのことです。

主人公トムは、若い母親が朝食準備をしているところに出くわします。

彼女は、コーヒーのいい香りが漂う中でベーコンを焼き、器用にホットケーキも焼くのです。

 

 

彼女も苦難の旅を続ける一人。

明日食べるものすらないかもしれない極限の状況なのに、彼女はトムに声をかけます。

「一緒に食べて行かない」と。

それは、生きるための最低限の助け合いなのです。私はこの助け合う人と人のつながりに感動しました。

 

貧しさの中でも助け合う姿から、もう一本の映画を思い出しました。イラン映画『少女の髪どめ』(マジッド・マジディ監督)です。

イランというと、ニュースのイメージから「怖い国」「怖い人たち」という先入観を持っていました。

しかし映画の中で、主人公の少年が姿を消した同僚の少女の行き先を必死で訪ねて歩く場面。

ホームレス同然の貧しいおじいさんに彼女のことをたずねます。おじいさんはクタクタの少年に声をかけるのです。

「お茶を一杯飲んでいきなさい」と。そして、別れ際に「神のご加護がありますように」ということばを贈ります。

ホームレス同様に貧しくても、少女を探して疲れ果てている少年に「お茶を一杯飲んでいきなさい」と声をかける優しさ。

 

 

イランの人々も特別な「怖い人たち」ではなく、私たちと同じ普通の人々なんだと実感しました。

 

そして、40年以上前、私がまだ若かった頃、ソ連時代にロシアを訪れたときの記憶も重なります。

自由時間に「地下宮殿」と呼ばれていたモスクワの地下鉄に乗りに行ったのです。

 

モスクワの地下鉄

 

乗り方がわからず、四苦八苦していたら、見知らぬおじさんが身振り手振りで乗り方を教えてくれました。

数カペイカの小銭を入れるだけでしたが、私たちは小銭を持っていませんでした。

すると、おじさんが自分の財布から小銭を出して、代わりに料金を支払ってくれたのです。

当時は、「ソ連=怖い国」「ソ連人=怖い人たち」でした。

旅行前、母が「ソ連なんて怖い国になんで行くん? ちゃんと帰ってきてくれるんやろうな……」と心配したほどでした。

でも、実際の冷戦時代、モスクワやレニングラード(サンクトペテルブルク)で出会った普通の人々は、遠い国からやってきた私たちが困っていると、とても親切にしてくれました。

そういえば、散歩していると、道端で紅茶やウォッカを飲みながらチェスをしている年金生活のおじいちゃんたち。

「お茶(あるいはウォッカ)を一杯どうだい?」と声をかけてくれました。

 

 

ここでも「お茶を一杯飲んで行きなさい」に出会ったのです。

 

社会が豊かになり、生活水準が上がった今、互いに貧しくても「食べるものがあるかい?」と気づかい一緒に食べるつながりを失っているのかも知れません。

加藤先生のザリガニおばちゃん、スタインベックの若い母親、イランのおじいさんも、ソ連のおじいちゃんたち、小さいけれど強い接点を見たように感じました。

分断が深まる現代社会で、国や宗教や思想が違っても、命をつなぐ食べ物を一緒に取ることが、人と人を結びつける大切な接点なのではないでしょうか?

極限の状況でも分け合う『共食』の力。

国や宗教や思想が違っても、人と人を繋ぐ本当の接点は、きっとここにあるのだと感じました。

(『一緒に食べていかない?』が国も宗教も思想も越える~共食の力:村川久夢)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

贅沢好みでパチンコ大好きな夫と、倹約と貯金が命の妻。この短編小説では、 水と油のような二人が、ケンカをしたり、足りない部分を補いあったりする日常をコミカルに描いています。

きっと「あるある!」「うちもそう!」とクスッと笑ったり、ホロリとしたり、ほのぼのできる短編小説です。

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