【短編小説】文句があるなら、あなたもやればいいのよ!

「ずっと夢見ていたのに。なんで今になって、こんなに怖がっているんやろう……」

準備は全部できたのに、とても不安で落ち着かないのです……。いつも誰かが私を見張って文句を言っているような気がするのです。

「編み物の専門学校を卒業したばかりなのに!」

「まだ20代のくせに」

「早すぎるわ! もっと勉強が必要だわ!」

……こんなふうに。それに意地悪な視線も感じて……。

私は結衣(ゆい)。地元の高校を卒業後、憧れの京都服飾学院ニットアーティストコースで三年間学びました。

在学中はサイズ直しや古着メンテナンスのアルバイトをこなし、最近はモノづくり系Webメディアのアシスタントとして記事も執筆。

スクールで得た知識と試行錯誤の日々を、すべて自分のものに変えるために——卒業と同時に、オンラインニット講座と実家での対面教室を開く準備を整えたのです。

 

不安で落ち着かない気持ちで街を歩いていたら、『メルヘンタロットセラピー』という看板を見つけました。

そのとき、私を悩ませる不安や落ち着かない気持ちが、もう耐えられないほど大きくなっていました。

「メルヘンタロットセラピー? 占いかしら……」

「タロット」の文字に突き動かされて、私はサロンのドアを開いたのです。不安な気持ちを少しでも抑えたくて。

部屋はアイボリーが基調の明るい部屋で、木の味を活かした北欧調の家具が置かれています。観葉植物もあって洗練された雰囲気でした。

長い髪をした優しそうな女性がこちらを向いて笑顔で言ったのです。

「こんにちは。私はセラピストのドレーム。ドレームはスウェーデン語で夢という意味なんですよ。セッションをご希望ですか?」

私はドレームさんからセッション時間や料金、メルヘンタロットセラピーの簡単な説明を受けて、思い切ってセッションを受けることにしたのです。

ドレームさんは慣れた手つきでカードをシャッフルし、カードをテーブルの上に扇型にならべました。

 

――怖いカードを引いたらどうしよう。骸骨とか、吊るされている男の人とか……。

私が引いたカードには、赤い頭巾をかぶった女の子と隅のほうに小さくオオカミが描かれていました。

「結衣さんとおっしゃいましたね。あなたはこのカードからどんな印象を受けたか、私に話して下さいますか」

ドレームさんがカードの説明をしてくれると思っていたので、どぎまぎしながら答えました。

「女の子の指に綺麗な蝶が止まっています。でも、女の子は実は昆虫が苦手なので、蝶が少し怖く感じています。

それに、隠れているオオカミが女の子を見張っているようで怖いです」

ドレームさんのまなざしは優しいけれど、私の心の奥まで見つめているようでした。

また、私の中で「誰かが私を見張っている」という気持ちがどんどん大きくなったのです。

「何だろう! 何だろう!」と考えるとますます気持ちが揺れ動きます。

ドレームさんは静かに頷きながら、私のことばを最後まで聞いてくれたのです。

そのとき、不意に……厳しい表情の祖父の姿が脳裏に浮かびました。

女性が活躍することを極端に嫌った怖い祖父。経済的にも社会的にも自分の足で立てる女性は祖父の敵だったのです。

祖父は一家の支配者で、祖母も両親も逆らえませんでした。

「女のくせに! なんできょうびの女は自立したがるんや!」

 

私がいい成績だったり、ハンドメイドの作品がコンテストで賞を取ったり、少しでも目立って褒められると、祖父はとても不機嫌になりました。

祖父はいつも居間の上座に座り、新聞をめくる音だけが響く部屋で私を見ていたのです。

「女のくせに……」

その一言で、テーブルの上の編みかけのセーターが急に重くなりました。

――なぜ女の子は頑張って目立ってはいけないの!

そう思っても口にできません。

「女の子のくせに口答えするな! 目立っていい気になるなよ!」

そう怒鳴る祖父が怖かったのです。成績が良いことや作品が賞を取ることは良いことなのに、なぜ叱られるのかわからなくて、私はビクビクしていました。

祖父がいつも見張っていて、頑張ったら叱ろうとしているかのように。

祖父はずいぶん前に亡くなりましたが……。

「そうだったんですね。たいへんでしたね。カードがあなたにこう言っています。『本当はあなた自身が一番自分を見張っているんじゃないの?』と……」

ドレームさんの声で、私はわれに返りました。夢中で祖父のことを話していたようです。

 

祖父のことを話すと、いじめられた小学生時代も思い出したのです。

いじめられたときも、あまり毛糸で小物を編んだり、端切れでポシェットを作ったりするときだけは、私の世界でした。

小学生の工作コンテストでは何度も賞を取り、ハンドメイド雑誌に「小学生がこんな素敵な作品を作りました!」と私の作品が掲載されたこともありました。

すると、「陰キャのくせに生意気だ!」といじめっ子たちが言ったのです。私はもっといじめられるのが怖くて、ひたすら我慢していました。

でも、ある日、私をいじめる男子たちがこういったのです。

「ハンドメイドってマジでタイパ悪すぎやんけ?」

「手編みとか年寄りのすること、タイパもコスパも終わってるし!」

そして、最後にこう言ったのです。

「賞を取ったからって調子に乗ってんなよ!」と。

そのことばで、熱いどろどろしたものが堰を切ったのを感じました。全身がぶるぶる震えました。

「賞を取ったらそんなにアカンの! 悔しかったらアンタも賞を取ったらええやんか!」

陰キャの私が激変し反抗したのです。

私をいじめる男子は格好ばかりつけて、成績もたいしてよくないし、少年スポーツチームに入っていても、活躍しているようではありませんでした。

私のことばが痛いところをついたのか、それ以後、私に近づいて来なくなりました。

私がずっと我慢していたことを夢中で話し終えると、穏やかに私の話を聞いていたドレームさんがこう言いました。

「今もあなたに『いい気になるなよ』と言う人がいますか?」

「アルバイト先に私と同じ専門学校を卒業した先輩がいて、『最近は卒業したら、すぐに教室を開く人がいるらしいわ……』と言った人がいましたが、今まで忘れていました」

ドレームさんが赤い頭巾を被った女の子のカードを手にとって、その意味を教えてくれたのでした。

「リスクをいとわず広大な未知の世界に心を開くのです。恐れることはありません! 自分の信じた道を行きなさい!」

カードの意味が私の心に響き、熱いものが込み上げてきたのです。

そう言えば、スクールで習ったことや試行錯誤して制作した作品を自分のWebサイトに掲載すると、影でこそこそ言う人がいました。

「そうですよね! 私が好きなことに一生懸命になってなぜいけないのでしょう。文句があるなら、自分もやれば良いのです! 私は自分の信じた道を行くだけです」

そのことばを口にすると、涙がボロボロ流れました。

祖父の鋭い目でことばを飲み込んだ苦しさ。いじめられてもひたすら耐えた惨めさ。一生懸命に頑張ると調子に乗っていると言われる悔しさ、必死で飲み込んできたのです。

熱い涙がすべて洗い流してくれました。

「ドレームさん、私のニット教室を絶対に開きます! 絶対に! 編物の楽しさを一人でも多くの人に伝えます」

自分のニット教室で色とりどりの糸が一目一目編まれて作品になる。

生徒が自分の手で作り上げた作品が、誰かの手に渡り、その人を笑顔にする。

そんな未来が見えました。

私はもう、誰の視線も恐れない。

だって、文句があるなら——あなたも、やればいいのだから。

私は未来に向けて歩み出したのです。

 

( 【短編小説】文句があるなら、あなたもやればいいのよ!:村川久夢)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都生まれで京都育ち、質素倹約が大好きな京女・妻。

対する夫・坂東は、贅沢好きでパチンコ大好き!  水と油のような二人が、ケンカをしたり、足りない部分を補い合ったりしながら、少しずつ歩み寄っていく日常を、コミカルに描いた短編小説です。

「あるある!」「うちもまさにこれ!」とクスッと笑ったり、ほのぼのしたり、ときにはホロリとする……

そんな夫婦の物語、ぜひお楽しみください🥰

 

 

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