同居していた父方の祖母は大きな漬物樽にぬか漬けを漬けていました。実家の通り庭の奥にある石の流しの下にその樽がでんと構えていたのです。

私は五歳くらいだったでしょうか? 小さかったからか、その樽がとても大きく見えたものでした。
祖母は毎日、二の腕あたりまでぬか床に手を入れて、ぬか床をかき混ぜていたものでした。
夏になると、毎日のように近所の八百屋さんに胡瓜と茄子を買うお使いに行きました。今では、見かけなくなりましたが、竹のザルに直接野菜を乗せて売っていたのです。
今のようにプラスチックトレイもラップもありません。あのころなら、ナフサが供給されなくても大丈夫だったでしょうね……。
私がお使いから帰ると、祖母が胡瓜と茄子を洗ってヘタを切り、漬物樽の蓋を取って、ぬか床に漬け込んでいました。

私はぬか床を触りたくてしかたがありませんでしたが、「粘土と違うで! 子どもは触ったらあかん!」と言って、触らせてくれませんでした。
父は祖母のぬか漬けで、おくどさんで炊いた炊きたてご飯を食べるのが大好きでした。昼食だったような記憶があります。
「なんで昼やったんやろ? ご飯を炊くのは朝と違うの?」と思い、記憶違いかと思いました。
でも、江戸時代、江戸が朝に炊飯するのに対して、上方では昼に炊飯する習慣があったそうです。祖母は明治24年生まれだったので、昼炊飯の習慣が残っていたのでしょう。
お昼になって、家で仕事をしていた父が食卓につくと、祖母が浅漬の小ぶりな茄子を2つに切って、手に持ったまま、「さあ、お前、好きやろ」と言って、父のお茶碗に乗せていたのをぼんやり覚えています。
父は浅漬が好きでしたが、私は時々できる古漬けが大好きだったのです。
飴色になった胡瓜や茄子を細かく刻んで、しばらく水に浸けて「けだし」するのです。昔、京都では、塩気の強いものを水につけて塩出しすることを「けだし」と言っていました。
塩気が抜けると、手で絞り、醤油、おろし生姜をかけると、私の大好きな「古漬け」ができあがりです。

古漬けの旨味、醤油の塩気、ピリッとした生姜がアクセントになって、本当においしいのです!
冷ご飯に冷やしたお番茶をかけて、この古漬けをおかずに食べると、ご飯が何膳でも食べられました。
冷たいお茶漬けの喉越しもよくて、調子にのっていっぱい食べました。
喉越しの良さに騙されて、あとで気持ち悪くなったこともありましたが(笑)
あのころは祖母が台所を仕切っていました。私が小学校の高学年になったころ、祖母が卒中で倒れ、台所のことは母がするようになりました。
母も祖母の漬物樽を引き継いで、季節の美味しい漬物を浸けてくれました。
夫がお漬物好きだったので、私もチャックシールがついたビニール袋にぬかが入っていて、冷蔵庫で保管する、簡単なぬか床で胡瓜や茄子を漬けたものでした。
京都には美味しいお漬物がたくさんあります。すぐき、柴漬け、千枚漬けなどなど。
でも、記憶の中の「おばあちゃんの古漬け」は格別に感じます。

(蒸し暑い季節になると思い出す「おばあちゃんの古漬け」:村川久夢)

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