梅雨空

日曜の朝、

響子は所在なくスマホをいじって

時を過ごしていた。

ひとり暮らしの狭い部屋の窓から

雨の音が響いていた。

 

頭では止めようと思いながら、

SNSのアプリを立ち上げた。

頭とは裏腹に

指先は結城のページを開いていた。

緊張で指先が震えた。

 

結城のページには、

湯気を立てるコーヒーの写真が

一枚投稿されていた。

「至福の時間」と一言コメントが添えられていた。

 

結城はコーヒー通で、

休日の朝は豆を焙煎することから始め、

手動のミルで豆を挽き、

ネルのフィルターでコーヒーを立て、

じっくり珈琲を味わうことを好んでいる。

 

響子は結城の腕枕でまどろみながら、

彼のコーヒーの薀蓄を聞いた覚えがあった。

 

こだわりの感じられるコーヒーカップの傍らに

微かに、だが自然に、

もう1つのカップが写っていた。

少し小ぶりなシンプルなマグカップだった。

 

写真を眺める響子の目は

僅かに写っているマグカップに

釘付けになった。

 

淡々とコーヒーを立てる結城。

綺麗に片付いたキッチン。

平凡で静かな日常。

 

こだわりのコーヒーカップで

こだわり抜いたコーヒーを飲む結城、

その傍らに居て、

シンプルで小ぶりなマグカップで

コーヒーを飲むその人。

 

結城の落ち着きや余裕と

切り離し難いその人の存在。

 

日曜の朝にこんな写真を投稿しながら、

響子の部屋を訪れる結城。

 

結城の身勝手、ずるさ、わがままと

切り離し難い響子の存在。

 

響子はいつ止むともない梅雨空のような

憂鬱な結城と自分の関係を思った。

 

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*鬱・夫の死を克服した作家&

インナーチャイルドカードセラピスト

村川久夢(むらかわ くむ)

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