<お正月の百人一首>
私にとってお正月の楽しみの一つは、家族での百人一首のカルタ遊びでした。父が読み札を読み上げると、皆が一斉に手を伸ばす、そんな賑やかな時間の中で出会った歌がこちらです。
「忘れじの 行末までは かたければ
今日かぎりの 命ともがな
儀同三司母」
<現代語訳:お前のことは忘れない、とあなたはおっしゃったわね。ほんとかしら。そのお言葉、信じ られるのかしら。行末のことはたのみがたいわ。それよりいっそ、今日のこの恋の幸福の絶頂で死んでしまいたいわ> (田辺 聖子著『田辺聖子の小倉百人一首』より)
<クライマックスの後も現実はつづく>
この歌に詠われた恋愛に憧れた頃は、「忘れない」と愛を誓ったクライマックスで、「命が燃え尽きればいい」というヒロインに共感していました。
でも、うつ病を患って休職していた46歳の時、この歌を思い出し、SNSにこの歌のことを次のように書いています。
「映画や芝居ならクライマックスで『幕』を引けますが、現実はその後も続きます。悲劇的な『行末』を見ることもあります。それでも私は、冷静に『行末』を見つめるヒロインに惹かれました」
自分の病気や両親の老いに直面して、クライマックスの後にも現実は厳然とつづくことを、私は思い知ったのです。
クライマックスで命が尽きることを願うヒロインに共感していた若い頃とは違い、むしろ「行末まではかたければ」ということばが、当時の私の心に深く刺さりました。好きな理由が変わったのです。
<今を生き尽くしたい>
さらに年齢を重ね60代になった私は、家族の死や友人との別れを経験するたびに、この歌の「行末」がリアルに感じられるようになりました。自分自身の老いもひしひしと感じながら、「行末」にある自分の死が見えるように感じます。
自分も人も常に変化しています。変化は悪いことではありません。でも、自分の信条は変化させてはいけないと感じています。
父が亡くなった時、葬儀場に父のエッセイ集や投稿を続けた同人誌、新聞の読者欄に採用されたエッセイのコピーなどを展示させてもらいました。父の文章を読むと、温厚でしたが、芯の通った父の生き様がありありと蘇ったのです。
父の信念が私に教えてくれたのは、どんな困難の中でも、自分を信じて「今」を生き尽くすことの大切さでした。
たとえ人や世の中が変わって、情熱的な恋が苦しく惨めな終焉を迎えても、自分が老いて人生の終焉を迎えても、自分の信念をしっかり持って、最後を見届けたいと思うようになりました。
だからと言って、厳しい現実の前には「恋や誓いなど意味はない」と言いたいわけではありません。
「行末」がどんなに困難であることを知っていても、誓わずにいられないほど命を燃え立たせたいのです。でも、それは「今日、命が尽きればいい」というのではなく、今を生き尽くしたいということなのです。
「行末」を身近に感じれば感じるほど、「今」を生きたいのです。
<自分を信じて生きる>
燃え上がった恋が、厳しい現実の前に虚しい残骸になることも、自分の終焉を身近に感じることも、確かに怖いです。
でも、それだからこそ、クライマックスの貴さを感じます。クライマックスの熱がだんだん平熱になって、それから数々の苦難があって、その困難のたびに、その真価が問われるのではないでしょうか?
それは恋愛だけでなく、人生でも言えることではないかとも思います。どんな結果を迎えたとしても懸命に生きたクライマックスは、貴いのではないかと思いました。
「今この時間を懸命に生きよう」ということではないでしょうか?
たとえば、かつて立派な天守を誇った城などがすっかり朽ち果て、石垣だけが残されている姿なども、また静かな存在感があり立派です。
天守を失いながらも、堅実に築かれた石垣が静かに立つ姿––それは、クライマックスの美しさがあってこそのものです。
このように人も「クライマックスの誓い」を心に秘めて苦難を重ねながら、静かに年齢を重ねていくのもいいなと思います。
クライマックスで誓ったこと、現実はそれがままならぬことがよくありますが、自分を信じて「今」を生き尽くすことの貴重さを、60代になった今、この歌から感じます。
あなたは、自分の「今」をどのように見つめていますか? どんな困難が訪れても、自分を信じて生きることを、今年のテーマにしてみませんか?
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