心の襞(ひだ)

春になるとある人の面影がよみがえる。

 

振り返ってみると

私が好きになった人たちは、

どう考えても成就しそうもない

遠い存在の人が多かった。

当然、片思いの連続で

安定した恋愛関係になったことがなかった。

 

ところが、

自分の思いを告げなかったら

死んでしまうと思える彼に出会った。

勇気を振り絞って思いを彼に告げた。

 

ちょうど春先のこんな時期だった。

私の気持ちを知った彼は

複雑な表情で

何かに耐えているように見えた。

 

「駄目だったのかな…」

と思って目の前が真っ暗になった。

 

彼は心情的には

私を好きでいてくれたらしい。

 

でも、経済的、社会的な背景が、

私と彼とでは、あまりに違いすぎていた。

彼は亡き父から

組織を受け継いだばかりの時だった。

注目もされ、期待もされていた。

特に彼の配偶者選びには

多大な関心が寄せられていた。

 

好きになったから付き合う

と言うわけにはいかない事情が

彼にはあったようだ。

 

私の目には10才近く年の離れた彼は、

手の届かない立派な人に見えていた。

しかし、彼も生身の人間だった。

人目を避けながら

私たちは度々会うようになった。

 

私は彼の思いを知っても

私たちの先行きが暗いことを感じていた。

きっと彼は私以上に感じていただろう。

 

偉大な父の後継者として常に注目され、

プレッシャーを感じていること、

父亡き後の不安、

あまりに多忙な毎日など、

日々感じる苦悩をしきりに訴えるようになった。

 

「次はいつ会える?」

と暗い表情で彼は何度も尋ねた。

 

私たちの先行きが暗いことを

感じているだけに、

彼は罪悪感に苦しんでもいたようだ。

 

私たちのことが噂になるまでに

それほど日はかからなかった。

 

彼は後継者としての責任を全うすべく、

私とは別れた。

私には彼が狡く思えた。

偉い人だと思って

慕っていただけに失望した。

自分の思いを伝えなければ

死んでしまうと思った程好きな人だった。

物凄く辛かった。

私は拒食症寸前になりボロボロになった。

 

でも今、振り返ると、

「彼も私も若かったな」と思う。

ボロボロに傷つき悩んだけれど、

彼と出会わなかったら良かったとは思わない。

 

手の届かない偉い人の彼を

ひたすら慕ったこと、

勇気を出して思いを告げたこと、

等身大の彼と付き合ったこと、

彼に失望し傷つき悩んだこと、

今は一つ一つが

とても愛しい思い出になった。

 

今では深い傷が私の心の襞になったと思う。

 

 

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*鬱・夫の死を克服した作家&

インナーチャイルドカードセラピスト

村川久夢(むらかわ くむ)

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