【連載小説】『薫~書の道・愛の道~』その48「書きたい!」

 

自室に戻ると佐伯はパソコンを立ち上げた。薫が基礎部分を作ってくれたホームページのブログに、桜の写真を添えて佐伯書道教室のお花見のことを書いてアップロードした。

 

インターネットには疎い方だったが、書道の普及やブランディングにはホームページ、ブログ、SNS等を使えることは、絶対に必要だと感じるようになったのだ。

  

今は週2回、ブログを更新している。1回は書道に関心がある人や書道をすでに習っている人に役立つことを書き、もう1回は今まで人生に目標が持てなかった人が、書道に触れ、書で自己表現し、人生に目標が持てるようになったと言う書道に関するエピソードや教室での出来事を書いた「教室だより」と言うような話を投稿していた。

 

また、「佐伯隆也書道教室」と言うアカウントでSNSも始めた。ブログを更新すると、SNSでシェアして拡散した。

 

週2回のブログの更新にも準備が必要だった。例えば、手本を書いて、書き方の注意を書くブログの場合など、初心者用の手本を書いて写真を撮り、書く時の注意点を写真用のソフトを使って書き加えなければならなかった。少しずつ慣れてきたが、パソコンに疎い佐伯が説明を書いた手本の写真を作るだけでも時間がかかった。

 

しかし、一生懸命に書いたブログをSNSで拡散すると、「わかりやすい」「字が素晴らしい」「~場合はどうしたらいいか?」等、少しずつ反応が出て、丁寧に対応すると、ブログの読者やSNSのフォロワーの中から、体験授業を希望する人も現れるようになった。

 

インターネットは書道の普及や書道に対する佐伯の考えかたの表現に大変効果的な方法だが、予想以上に時間を取られるのも事実だった。それでも真面目な佐伯は手を抜かなかった。

 

週3回各2時間の書道教室、書道教室の準備、書道の普及やブランディングのための時間、それに熱心に取り組めば取り組むほど、佐伯自身の書の稽古や書作品に取り組む時間が少なくなった。

 

書道教室を終え、雑務を終えると、すでに夜遅い時間になっていた。それでも佐伯は、受け身で有り余るほど自由な時間があった頃が良かったとは思わなかった。あの頃も書に真面目に向き合っているつもりでいたが、今のように「書きたい!」と言う突き動かされるような強い思いがなかった。

 

佐伯の胸に薫が、貴子が、陽が、美緒が、昭子が、上条が、佳苗が、書に出会い、書で自己表現することを知り、書に夢を託す人たちの顔が浮かんだ。

 

-書に込められたいろいろな人の夢を書で表現したい!-

 

佐伯は筆を取ると夢中で筆を運んだ。師匠八雲蒼風のもとで初めて筆を取った時のように。気がつくと、空が白んでいることも度々だった。

 

佐伯の書が変わったことに薫はすぐに気づいた。以前の佐伯の書は美しく整っていた。美しく整いすぎて、近寄りがたいものを感じさせた。今も佐伯の書は美しいけれど、今は温かみや穏やかさに溢れていて、寄り添いたいように感じた。

 

「みんなの書道に寄せる思いを感じるようになって、本当に心の底から『書きたい!』と思うようになった。僕の中から突き動かすように『書きたい!』と言う思いが湧いて来ているんだ。それを何らかの形にしたい」

 

佐伯と抱擁した日の佐伯の言葉が蘇った。

 

-先生が「書きたい!」と仰っていたものが少しずつ私にも見えて来ました!-

-先生!私も書きたいです。夢がなかった私が書に出会い、書で自分を表現し、自分の夢を掴んだことを書きたいです!-

 

薫は筆を取り、紙に向かった。無心だった。いつか佐伯と二人で円を書いた時のように無心だった。

 

薫は無意識の世界で、佐伯とそれぞれの円を描いていた。そしてやがて、二人が別々に描いた円は、静かにゆっくり一つの円になるのだった。

 

 つづく

 

<薫~書の道・愛の道~目次>


「墨の香り」『薫~書の道・愛の道~』その1

「衝動」『薫~書の道・愛の道~』その2

「月光」『薫~書の道・愛の道~』その3

「脱皮」『薫~書の道・愛の道~』その4

「気づき」『薫~書の道・愛の道~』その5

「衝撃」『薫~書の道・愛の道~』その6

「オアシス」『薫~書の道・愛の道~』その7

「疑念」『薫~書の道・愛の道~』その8

「書道講習会」『薫~書の道・愛の道~』その9~

「イルミネーション」『薫~書の道・愛の道~』その10

「カナリーイエローのマフラー」『薫~書の道・愛の道~』その11

「タロット:塔」『薫~書の道・愛の道~』~その12~

「遠い存在」『薫~書の道・愛の道~』その13~

「大掃除」『薫~書の道・愛の道~』その14~

「贈り物」『薫~書の道・愛の道』~その15~

「書き初め」『薫~書の道・愛の道~』その16

「翡翠色の振り袖」『薫~書の道・愛の道~』その17

「若い二人」『薫~書の道・愛の道~』その18

「壁を越えて」『薫~書の道・愛の道~』その19

「プライド」『薫~書の道・愛の道~』その20

「火祭り」『薫~書の道・愛の道~』その21

「濃紺のネックウォーマー」『薫~書の道・愛の道~』その22

「嵐の前の静けさ」『薫~書の道・愛の道~』その23

「闘いの序章」『薫~書の道・愛の道~』その24

「円相(えんそう)」『薫~書の道・愛の道~』その25

「ライバル」『薫~書の道・愛の道~』その26

「殻を脱ぎ捨てて」『薫~書の道・愛の道~』その27

「敷かれたレール」『薫~書の道・愛の道~』その28

「『塔』のメッセージ」『薫~書の道・愛の道~』その29

「江碧鳥逾白」『薫~書の道・愛の道~』その30

「岐路」『薫~書の道・愛の道~』その31

「行動開始」『薫~書の道・愛の道~』その32

「存在感」『薫~書の道・愛の道~』その33

「生徒募集中」『薫~書の道・愛の道~』その34

「最初の日」『薫~書の道・愛の道~』その35

「復帰」『薫~書の道・愛の道~』その36

「理解者」『薫~書の道・愛の道~』その37

「体験授業」『薫~書の道・愛の道~』その38

「春の兆し」『薫~書の道・愛の道~』その39

「揺れる想い」『薫~書の道・愛の道~』その40

「信じる道」『薫~書の道・愛の道~』その41

「夢を伝える人」『薫~書の道・愛の道~』その42

「変わり目」『薫~書の道・愛の道~』その43

「大切な人」『薫~書の道・愛の道~』その44

「抱擁」『薫~書の道・愛の道~』その45

「花吹雪」『薫~書の道・愛の道~』その46

「ナビゲーター」『薫~書の道・愛の道~』その47

「書きたい」『薫~書の道・愛の道~』その48

「克服」『薫~書の道・愛の道~』その49

 

作家:村川久夢

 

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