【連載小説】『薫~書の道・愛の道~』その37「理解者」

陽は玄関から聞こえる声を耳ざとく聞きつけた。陽が玄関に向かうと、美咲がしょんぼり立っていたのだった。

 

「書道教室にまで追いかけて来たのかよ!」と言いかけ、美咲のあまりに元気のない様子に言葉を飲み込んだ。

 

「陽の家に行ったら、お母さんが書道教室に行ったって言ったから・・・」美咲がポツリと言った。

 

気がつくと、佐伯も薫も美緒も玄関に来ていた。

「バスケットボール部のお友だちだったね」美咲を覚えていた佐伯が言った。

 

「先生、今日もありがとうございました。薫さん、美緒先輩、今日は先に帰ります。作戦会議で決まったこと、今度、教えて下さい」陽は挨拶すると、美咲と帰って行った。

 

陽が美咲と並んで歩くと、美咲が元気のない声で言った。

「今日は書道教室まで来ても怒らなかったね。怒ると思ってた。高校を卒業したら、大学も違うし、ますます陽に会えなくなって、寂しくて・・・」

 

陽たちが通う高校はそれなりにステイタスのある大学の附属高校で、陽も美咲も中学のころから附属中学、附属高校で学んで来た。陽は書道の勉強ができる国文科に内部進学が決まっていた。美咲は、演劇を勉強できる外部の大学に進学が決まっていたのだった。

 

「俺、正直、美咲がなんで俺なんかに一生懸命になるのかわからないよ。美咲は学校でもかなり目立つ美少女だし、美咲に告白して、撃沈したヤツもたくさん知ってる。勉強もスポーツもできるし。なんでお遊びバスケ部のマネージャーだったのか謎だよ」陽が不思議そうに言った。

 

「陽はもう少し女の子の気持ちがわかるのかと思ってた」美咲が悲しそうに言った。

「・・・」

 

「私、陽がカッコイイからとか、勉強やスポーツができるからとか、有名な書道家の息子だからとか、そんな理由で陽が好きなんじゃない」

 

「言葉では上手く言えないけど、陽といると楽しくて、不思議に安心できて、ずっと一緒にいたいって思うの。会えないと寂しくて、悲しくて。自称彼女でいるのが、だんだん虚しくなって来たんだ」

 

「それに私は、陽がカッコよくて、勉強やスポーツも出来て、書道の才能を認められていても、本当は何をしたいのかわからなくて、いつも苛々していたのを知っていたよ」

 

陽は、いつも一緒に遊び呆けていた美咲と初めて出会ったように感じて驚いたのだった。

 

「さっき書道教室で会った大人しそうな小柄な人が薫さんでしょ?陽が薫さんって初心者の人が書道教室に入って来たって話してくれた頃から、だんだん陽が一緒に遊ばなくなって、真面目に書道の練習をするようになったね」

 

「『ああ、陽は自分が本当にやりたいことを見つけたんだ!』と思ったら、陽が遠くなって悲しかった。怖かった!」

    

陽は、美咲が自分以上に自分のことを理解していることに驚きを感じた。

   

確かに陽は容姿にも学習能力にも運動能力にも恵まれていた。書道家の両親の影響で幼いころから書道にも親しんで、その潜在力を感じさせる才能を評価されていた。

   

しかし、陽にとっては、全て与えられたもので、自分が心から望んだものではないことに疑問を感じ、常に苛立っていたのだった。

   

陽は、改めて薫が書道教室に現れた日のことを思い出していた。師範級の生徒に囲まれて、気後れしながらも、書道に出会ったことで、乾いた土が水を吸い込むように、佐伯の指導を受け入れ、上達した薫。

  

今まで恵まれた環境は当たり前、半ば惰性で書道に向かっていた陽には、薫の存在は、新鮮で衝撃だった。

  

陽は薫に強く惹かれた。薫が佐伯を慕っていることを知っていても薫が好きだった。いつも薫の味方でいようと心に決めていた。

  

今、美咲に指摘されて初めて気づいたことがあった。薫が心の世界を書で表現しようともがいている姿を陽は間近で見ていたのだ。薫の出現で、陽は初めて書が自己を表現する方法だと感じたのだった。

  

陽は、自分の中のエネルギーを書で表現しよう、創造しようとするようになった自分を自覚したのだった。

 

「俺、美咲のことをスペックだけ高い女の子だと思って誤解していたよ。ごめん。美咲は、俺自身より、俺のことをわかっていてくれたんだね。ありがとう、美咲!」陽は心から言った。

   

「陽!」と叫ぶと美咲は陽の胸に飛び込んだ。陽はしっかり美咲を抱きしめたのだった。

 

つづく

    

<薫~書の道・愛の道~目次>


「墨の香り」『薫~書の道・愛の道~』その1

「衝動」『薫~書の道・愛の道~』その2

「月光」『薫~書の道・愛の道~』その3

「脱皮」『薫~書の道・愛の道~』その4

「気づき」『薫~書の道・愛の道~』その5

「衝撃」『薫~書の道・愛の道~』その6

「オアシス」『薫~書の道・愛の道~』その7

「疑念」『薫~書の道・愛の道~』その8

「書道講習会」『薫~書の道・愛の道~』その9~

「イルミネーション」『薫~書の道・愛の道~』その10

「カナリーイエローのマフラー」『薫~書の道・愛の道~』その11

「タロット:塔」『薫~書の道・愛の道~』~その12~

「遠い存在」『薫~書の道・愛の道~』その13~

「大掃除」『薫~書の道・愛の道~』その14~

「贈り物」『薫~書の道・愛の道』~その15~

「書き初め」『薫~書の道・愛の道~』その16

「翡翠色の振り袖」『薫~書の道・愛の道~』その17

「若い二人」『薫~書の道・愛の道~』その18

「壁を越えて」『薫~書の道・愛の道~』その19

「プライド」『薫~書の道・愛の道~』その20

「火祭り」『薫~書の道・愛の道~』その21

「濃紺のネックウォーマー」『薫~書の道・愛の道~』その22

「嵐の前の静けさ」『薫~書の道・愛の道~』その23

「闘いの序章」『薫~書の道・愛の道~』その24

「円相(えんそう)」『薫~書の道・愛の道~』その25

「ライバル」『薫~書の道・愛の道~』その26

「殻を脱ぎ捨てて」『薫~書の道・愛の道~』その27

「敷かれたレール」『薫~書の道・愛の道~』その28

「『塔』のメッセージ」『薫~書の道・愛の道~』その29

「江碧鳥逾白」『薫~書の道・愛の道~』その30

「岐路」『薫~書の道・愛の道~』その31

「行動開始」『薫~書の道・愛の道~』その32

「存在感」『薫~書の道・愛の道~』その33

「生徒募集中」『薫~書の道・愛の道~』その34

「最初の日」『薫~書の道・愛の道~』その35

「復帰」『薫~書の道・愛の道~』その36

「理解者」『薫~書の道・愛の道~』その37

「体験授業」『薫~書の道・愛の道~』その38

 

  

作家:村川久夢

 

 

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