【連載小説】『薫~書の道・愛の道~』その11「カナリーイエローのマフラー」

書道講習会のお手伝いを終えると、薫と佐伯は書道道具を片づけるために教室に戻った。薫を心配して待っていた陽はテキパキと片づけを手伝い、薫が片づけを終えると、

 

「佐伯先生、僕、薫さんを家まで送ります」待ちかねたように陽が言った。

佐伯は何か言おうとしたが、言葉を飲み込み、

「ああ、頼むよ」と短く答えた。

  

陽は薫を振り返って、思わずハッとした。パールボタンがついた深緑のニットアンサンブルを着て、アイスグレーのフレアースカートを履いた薫は、驚きを隠せないほど愛らしかったからだ。

 

「薫さん、疲れただろう?有閑マダムの相手なんて、考えただけでもゾッとするよ」

陽はクリスマスデコレーションで華やかな帰り道で言った。

 

「華やかで綺麗な人ばっかりだったわ。それにみんな書道も上手だったし…」

薫はさすがに懇親会での様子を陽に話す気持ちにはなれなかった。

 

「『佐伯先生、まだ結婚なさらないの?』『恋人はいらっしゃらないの?』『貴子さまとお親しいんでは?』って会話ばっかだったんだろ?だけど、マダムのお相手すれば、佐伯先生にとってはありがたい臨時収入が入って来るから、無下にできないんだろうね」

「・・・」

 

「貴子さんの親も佐伯先生の親も母屋の幸子伯母さんも、もちろん貴子さんも、みんなが佐伯先生と貴子さんの結婚を望んでいて、佐伯先生一人が煮えきらないんだ。先生の気持ちもわからないではないけれど…」

 

ホテルからの帰り道で、佐伯からも聞いた話だが、陽の口から同じ話を聞くと、薫は心が乱れるのを感じた。

 

「キャー!」

 

その時、薫が叫んだ。履き慣れないパンプスのヒールが、側溝の蓋に挟まり、薫が転びそうになったのだ。とっさに陽は薫を抱きとめた。

 

薫を抱きとめて、陽は薫があまりにも華奢で軽いのに驚き、同時に愛しさを感じた。

-こんなに華奢で小さな身体でいつも一人頑張っているんだ-

 

「陽君、ありがとう。もう、大丈夫」薫は言って離れようとしたが、

 

「もう少し、もう少しだけ、こうしていさせて。薫さん、俺は薫さんの味方だよ。どんな時でも、こうして薫さんを支えてあげるよ」陽は薫を抱きとめた腕の力を強めて言った。

  

それから陽は急に無口になり、薫より少し先を歩いた。アイスグレーのピーコートにカナリーイエローのマフラーが、陽によく良く似合っていた。

   

次の練習日、いつものように薫は一番に教室に行って、部屋の空気を入れ替え、掃除をして、書道教室の準備をした。

   

しかし、いつもの無心さはなく、薫の心には、イルミネーションに照らし出された佐伯の端正な横顔とカナリーイエローのマフラーをした陽の姿が、交互に現れては消えて行った。

   

その時、「薫!見て~!」と美緒の声がした。振り返ると美緒が冊子「群青」を手にして、教室に入って来た。

  

「薫、8級で合格したね。3番目に名前が出ているよ。名前は検定作品が優秀な人順に書かれるのよ。2級も飛び級したのね」美緒は冊子のページを開いて言った。

  

「え?私は10級を受けたんだけど」薫が怪訝(けげん)そうに言うと、

「だから、薫は2級飛ばして8級に合格したのよ!しかも作品の写真まで載ってる!」

美緒は写真を指差して言った。

 

そこには薫の名前と作品の写真が掲載されていた。

 

「でも、当然と言えば当然よね。佐伯先生から直接指導を受けて、あんなに熱心に練習したんだもん。うかうかしてたら、追い抜かされちゃう!」と言って美緒は笑った。

 

薫は冊子をしばらく見つめて、しばらくしてやっと嬉しさがこみ上げて来たのだった。

 

つづく

「墨の香り」~オムニバス「薫」:その1~

「衝動」~オムニバス「薫」:その2~

「月光」~オムニバス「薫」:その3~

「脱皮」~オムニバス「薫」:その4~

「気づき」~オムニバス「薫」:その5~

「衝撃」~オムニバス「薫」:その6~

  「オアシス」~オムニバス「薫」:その7~

「疑念」~オムニバス「薫」:その8~

「書道講習会」~オムニバス「薫」:その9~

「イルミネーション」~オムニバス「薫」:その10~

「カナリーイエローのマフラー」~オムニバス「薫」:その11~

「タロット:塔」~オムニバス「薫」:その12~

 

作家:村川久夢

 

 

<関連記事>

*村川久夢著『50歳から夢を追いかけてもいい5つの理由』1章無料公開中

*村川久夢プロフィール

*村川久夢著『大丈夫、きっと乗り越えられる~鬱・夫の死を克服した私からのエール~』

*村川久夢さんを知る!<突撃!注目の起業家インタビュー>

       

*----------*

【村川久夢ホームページ】

村川久夢著『50歳から夢を追いかけてもいい5つの理由』✿

 

新著『50歳から夢を追いかけてもいい5つの理由』は、村川久夢が「年だから」「今さら遅いから」など様々な心の制限を外し、他の誰かのためではなく、自分の心が望むことにしたがって生きるようになった軌跡を描きました。私が自分軸で生きられるようになった成長の課程を描いています。

  *電子書籍(Amazon Kindle「読み放題」に登録されている方は0円でご購読いただけます。一般価格は550円です)下記ボタンよりお申込み下さい。

*紙書籍は、¥880(送料¥180)です。下記ボタンよりお申し込み下さい。

 

*----------*

✿心の制限を外す講座✿

 心の制限を外せば、いろいろなことにチャレンジして、人生を楽しめるのです。「心の制限の正体とは何か?どうして心の制限を外すか?心の制限を外せばどんなことが起こるのか?」を9通のメールに込めた「心の制限を外す無料メール講座」を是非お読み下さい。

*----------*

*村川久夢ホームページトップには、新著『50歳から夢を追いかけてもいい5つの理由』に頂いた感想を多数掲載しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA