【連載小説】『薫~書の道・愛の道~』その9「書道講習会」

薫は墨をすればすぐに書道練習ができるように、自宅の机の上にいつも書道道具を出していた。書道展の練習は、部屋を片付けないと練習できなかったが、検定試験の課題は幸いなことに半紙サイズだった。

  

薫は、佐伯から「群青会」入会の話を聞くと、すぐに入会を決め、「群青会」の検定試験を受けることを決めたのだ。

   

例え10分でも時間があると筆を持ち、検定課題の練習をした。課題の練習をすると、今まで佐伯の教室で習ったこと、1ヶ月間離れに通って1人練習したこと、書道展の課題として漢詩に取り組んだこと、それらすべての意味が「ああ、そう言うことだったのか!」と納得できるのだった。

   

薫の書は書道を始めた時とは別人のように上達していたのだ。

   

街には師走の色が濃くなり、至る所にクリスマスデコレーションを見かけるようになった。教室に行くと、書道講習と懇親会は、高台にある有名高級ホテルで行われることを薫は佐伯から告げられた。

    

薫は案内の用紙に書かれている書道講習の参加費があまりに高額なので驚いた。美緒が「ファンミーティングのようだ」と言ったことが思い出された。

    

-華やかな場所は苦手!教室で書に向かっている時が一番好きだわ-と薫は思った。

   

自分の作品に取り組む時だけでなく、教室で生徒を指導する時も佐伯は真摯だった。佐伯の端正な顔に気迫が漂うと、引き込まれるように魅力的で美しかった。

   

佐伯に見とれている自分に気づいて、薫ははっとした。誰かに見られたのではないかと、心臓がドキドキするのを感じた。

     

佐伯の書道講習と懇親会は、クリスマスも近くなったある日の午後、予定通り高台の有名高級ホテルの1室で開かれた。

   

薫は準備を整え、出入口に近い席でマダムたちの到来を待った。しばらくすると賑やかなマダムたちの嬌声が聞こえた。部屋に現れたマダムたちを見て、薫は驚きを感じた。マダムたちは華やかに着飾っていたのだ。

   

-今日はディナーショーなの?パーティーなの?-薫は訝(いぶか)った。

   

「ああ!佐伯先生!」

とマダムたちは口々に叫んで、現れた佐伯を取り巻いた。

    

マダムたちに囲まれ、佐伯は少し困ったような表情をしていたが、丁寧な口調でマダムたちに着席するように指示したのだった。

    

講習会が始まった。マダムたちは、皆それなりに達筆だった。また、それなりに熱心でもあった。佐伯は机の間を回って指導していた。

 

「佐伯先生、ちょっと見て頂けません」

一人のマダムが佐伯を呼んだ。頬を上気させ、目をキラキラさせて佐伯を見つめていた。

「字の形は整っていますね。あと少し線に勢いが出るともっとよくなりますよ」

と佐伯は冷静に的確に指示をした。

すると他のマダムたちも後れを取るまいと次々佐伯を呼んだ。

「先生、私も見て下さい」「私も!」「次は私を!」

 

佐伯の書道講習を受けたいと言うのは口実で、佐伯と親しくなりたい、佐伯に近づきたいというマダムたちの下心が丸見えで、薫は息苦しく感じたのだった。

     

講習の時間が過ぎた。薫は別室で行われる懇親会にも同行することになったのだ。後片付けを終えた薫が懇親会の部屋に近づくと、マダムたちの嬌声や笑い声が廊下にまで響いていた。薫が部屋に入ると同時に一人のマダムが、

 

「佐伯先生、まだ結婚なさらないの?」

と意味ありげな流し目で佐伯に尋ねた。

  

佐伯は困ったような表情でだまっていた。

  

「本当ですわ。佐伯先生は素敵でいらっしゃるから、さぞおモテになるんでしょうね?」

「モテすぎて、相手を選べないんじゃありませんか?」

マダムたちは熱を帯びて佐伯を質問攻めにした。その時、一人のマダムが訳知り顔でこう言った。

   

「佐伯先生の意中の人は、あの方だって、みなさんご存知じゃありませんか。お美しくて、才能豊かで、お育ちもよくて」

  

マダムたちは一斉に、

「あ~!そうだったわ~!私たちなんて全然お呼びじゃないですわね~!」と言った。

  

佐伯は苦り切った表情で終始無言だった。

   

薫は息苦しくなった。

-早くここから出ていきたい!-と強く思ったのだった。

 

つづく

   

「墨の香り」~オムニバス「薫」:その1~

「衝動」~オムニバス「薫」:その2~

「月光」~オムニバス「薫」:その3~

「脱皮」~オムニバス「薫」:その4~

「気づき」~オムニバス「薫」:その5~

「衝撃」~オムニバス「薫」:その6~

  「オアシス」~オムニバス「薫」:その7~

「疑念」~オムニバス「薫」:その8~

「書道講習会」~オムニバス「薫」:その9~

「イルミネーション」~オムニバス「薫」:その10~

 

作家:村川久夢

 

 

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