僕は爪

ライブが終わった。

拍手が鳴り止まずギタリストのオジサンは

ちょっとはにかんだ表情でお辞儀をして

アンコール曲を演奏したよ。

 

オジサンは街の小さなバーやカフェで

ギターを演奏しているんだ。

僕は爪、

オジサンとずっと一緒に旅を続けて来た。

だからオジサンのライブの後はいつも、

みんなが拍手を止めないことを

知っているんだ。

 

オジサンのライブにやって来る人は、

仕事帰りのサラリーマン、

家事を早めに片付け駆けつけたお母さん、

同僚に言い訳しながら

仕事を早めに抜けてきたOLのおねえさん、

みんなオジサンのギター演奏を

聴くのを楽しみにしているんだ。

 

ライブの時、

オジサンは曲の間に面白いお話をして

みんなを笑わせるんだ。

だけどいつも演奏が進むと

不思議なことが起こるんだ。

オジサンの演奏に身体を揺らせ、

聞き惚れながら涙を流す人がいるんだ。

 

でも、その人は

ちっとも悲しそうじゃないんだ。

ライブ会場に入って来た時、

暗い顔をしていたその人は、

涙を流しながら目をキラキラさせて、

明るい顔になって行くんだ。

 

僕はとっても誇らしい気持ちになるよ。

だって目立たないけれど、

オジサンの演奏にとって

僕はなくてはならない相棒なんだ。

僕は簡単に割れたり欠けたりして

オジサンのギターの音色を損ねないように

身体を頑丈に鍛えているんだ。

 

だけど、オジサンのギターの音色に

聞き惚れる人はたくさんいても、

僕がこんなに頑張っていることを

知ってる人はあまりいないんだ。

 

でもいいんだ、僕がいなければ

オジサンの深いギターの音色が

出ないことを誰よりもオジサンが

知ってくれている。

僕は目立たないところでいい音を出す。

それでいいんだ。

 

それにオジサンは僕のことを

とても大切に思ってくれているんだ。

僕が乾燥して割れたりしないように

保湿して割れにくい形に切り揃えてくれる。

 

僕はオジサンが

ギター演奏をする相棒になって、

オジサンが奏でたいと思う音を

出せたら嬉しいんだ。

 

オジサンのギターの音色は、

疲れたサラリーマンや

家事に追われるお母さんや

同僚に気ばかりつかっている

OLのおねえさんやみんなを

喜ばせて元気にするんだ。

僕はそんな姿をみると

たまらなく嬉しくなるんだ。

 

僕は爪、

目立たないところでいい音を出す。

それでいいんだ。

 

*ギタリスト竹内いちろさんの爪

・・・・・・・<完>・・・・・・・