晩秋の京都~大人の時間~

宿を出ると、早紀は佐伯の後について

京都市営地下鉄に乗り込んだ。

烏丸線から東西線に乗り換え

東山駅に到着した。

 

地上に出ると時雨れだった。

空は灰色だが晴れた日にはない

しっとりとした趣を感じた。

 

佐伯と連れ立って京都に来るのは

何回目だろう。

幼い日を京都で過ごした佐伯は

京都には特別な思い入れがあるようだ。

 

東山駅から東に少し歩くと

白川沿いの柳が目に入った。

白川橋の石碑を川沿いに南に下がると

佐伯が京都に来ると必ず寄る料理店があった。

 

店に入り席に着くと、

「やっぱり京都はいいな。落ち着くよ」

と佐伯が言った。

早紀は黙って頷いた。

 

二人は京野菜の海老芋が主菜の

季節の料理を注文し、

出された香ばしいほうじ茶を飲んだ。

窓から見える白川の流れや川沿いの柳が

のどかだった。

 

「腹が減ったね。

ホテルでは朝飯を食わなかったからな」

「部屋でコーヒーを飲んだだけですもの」

 

程なく料理が運ばれてきた。

この店は京都府内で生産された

有機栽培の野菜だけを使っている。

 

佐伯は蒸し野菜を一口食べ、

「調味料をつけなくても

野菜本来の甘みがあるね」と言った。

「シンプルな調理は

素材の味が試されますよね」

早紀も野菜を味わいながら答えた。

 

「そういうもんだ。

この店の料理は一品一品が

本当に丁寧に作られている。

同じ金額を出せば、

まあまあな肉が食べられるけれど、

やっぱり京都に来た時は、

この料理が食べたいよ」

 

佐伯も早紀もじっくり味わい料理を食べた。

落ち着いた時間が流れた。

 

食事を終えた二人は、

食後の散策場所を話し合い、

店に近い青蓮院や知恩院に

立ち寄ることにして、店を出た。

 

秋は京都が一番趣深く美しい季節だった。

二人は神宮道をのんびりと歩いた。

 

「京都はいつ来ても情緒があるけれど、

僕は晩秋の京都が一番好きだね」

 

「去年来たのは桜の季節でしたよね」

 

「僕は高校の修学旅行で京都に来たけれど

高校生にとって、

あれは市中引き回しみたいなものさ。

京都の良さは大人になって分かるものだと

僕は思うよ」

 

「京都に来るといつもその話ね。

でも本当に秋の京都は情緒があっていいわ。

写真に撮りたいところばかり」

 

「早紀は写真を撮るのが好きだからな」

 

「今日は一眼レフを持って来なかったけれど

スマホのカメラでも秋の京都は絵になるわ」

 

「早紀は写真を撮りだすと、

人が変わったように活動的になるね」

 

青蓮院らしき寺院が見えると

早紀は活発に写真を撮り始めた。

雨に濡れた石畳、苔むしたクスノキの大木、

山門に色づいた木々が美しく映えた。

「紅葉の名所は他にも沢山あるだろうけど、

この名刹の雰囲気は

京都でないと味わえないよ」

 

「平日だからか、雨のせいか、

人ごみが酷くないのもありがたいわ」

 

知恩院の境内にさしかかると

早紀はますます上気した表情になり

快活になった。

記念に二人で写真を撮りたそうなカップルを

見つけると、自分から進んで、

「撮りましょうか?」と声をかけた。

 

佐伯と早紀は古寺の美しさに

ため息をつきながら進むうちに、

有名な知恩院の山門に辿り着いた。

 

山門の柱を通して、

まっすぐな通りと京都の街並みが見渡せた。

早紀はそこでもカップルの写真を

進んで撮ってやっていた。

 

その時、早紀が写真を撮ってやった

若いカップルの女の子が言った。

 

「今度は私が写真を撮りましょうか?」

 

早紀は黙って佐伯の顔を見た。

 

今度は男の子が佐伯の方を見て言った。

「記念になるし

山門を背景にお二人を撮りますよ」

 

その時、佐伯が言った。

「いや、いいよ。夫婦じゃないから・・・」

 

気を効かせて声をかけた男の子は

戸惑った表情になり、

気まずそうな笑顔をみせて立ち去った。

 

「行こう」

佐伯は早紀に声をかけた。

 

早紀は目の前に広がる晩秋の京都の街に

改めて目を向けた。

 

大人の時間がゆっくりと流れた。

 

 

・・・・・<完>・・・・・

 

*鬱・夫の死を克服した作家&

インナーチャイルドカードセラピスト

村川久夢(むらかわ くむ)

 

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