【母の日に寄せて】お母さんの前であなたはありのままでいられましたか?

こんにちは、村川久夢です。

もうすぐ、母の日ですね。

突然ですが、あなたはお母さんの前で

ありのままのあなたでいられましたか?

 

私は母の前で

ありのままの私ではいられませんでした。

 

母は律儀で働き者でした。

苦労の多い人でした。

私はそんな母を気づかって、

いつもいい子でした。

特に母の前では母を喜ばせたくて

いい子でいました。

 

この掌編小説は、

母と娘としていつも近くにいながら、

心から母に甘えることが出来なかった

千鶴子という女性の物語です。

 

*----------*

掌編小説『~喪服~

お母さんずっと良い子でいるのは

しんどかったよ!』

 

母八重が腸閉塞で入院し、

誤嚥性肺炎を併発して死んだのは、

入院の翌日だった。

 

ここ数年、パーキンソン病で

腸閉塞を起こしやすくなっていた八重は

入退院を繰り返していた。

「もう長くないかもしれない」

と覚悟はしていたが、

あまりに急なことで

千鶴子は頭の中が

真っ白になった。

 

医師から八重の臨終を告げられると、

父の英二郎は人目も憚らず大泣きした。

八重危篤の連絡に

慌てて駆けつけた弟の要も

英二郎と抱き合って号泣した。

 

千鶴子はさあーと

気持ちが引いて行くのを感じた。

 

担当の医師や看護師に挨拶をし、

看護師に手伝ってもらいながら

八重の湯灌を行った。

病院が手配してくれたワゴン車で

八重を自宅に連れて帰った。

 

英二郎と要が

泣き崩れているのとは対照的に

千鶴子は一粒の涙も見せずに

淡々と八重の喪儀の準備を

取り仕切った。

 

その夜、千鶴子は八重の枕元で

喪服の躾糸を解いた。

家紋にはまだ保護の紙が付いていた。

 

八重が千鶴子のために

作ってくれた喪服だった。

八重はまさか自分の葬儀で

初めて千鶴子がこの喪服を

着ることになろうとは

思ってもいなかっただろう。

 

八重は眠っているような

安らかな美しい顔をしていた。

 

千鶴子は病院で

八重の身体を清め、

八重の手を拭きながら、

「昔、よくこの手で叩かれたなあ」

と思ったことを思い出した。

 

八重がまだ元気だった頃、

千鶴子が幼い頃、

八重が千鶴子をよく叩いたことや

弟の要と扱いが違ったことを

一度だけ千鶴子が

口にしたことがあった。

八重は烈火の如く怒って言った。

「あなたの考え方は

なんてねじ曲がっているの!」

 

気に入らないことがあると

八重が千鶴子に八つ当たりしたことや、

要と扱いに差があったことを

八重が本当に忘れていたのか、

痛いところをつかれて怒ったのかは、

今となってはわからなかった。

 

八重がパーキンソン病を患い、

千鶴子夫婦と

同居するようになってからも、

八重の口から、

「昔よく八つ当たりして

叩いて悪かったね。

ごめんね、千鶴子」

という言葉は

結局最後まで聞けなかった。

 

年老いて難病で弱っている八重に、

祖母と八重、

英二郎と八重の間に立って、

気を使い辛抱を強いられ

辛かったことを

千鶴子自身も言い出せなかった。

 

八重が苦労してきたことは

千鶴子が一番よく知っていたからだ。

だから今日まで千鶴子は

黙って「良い子」を

演じ続けて来たのだ。

 

結局千鶴子は

ありのままの自分を

八重に愛してほしいと思いながら、

最後まで「良い子」のままだった

自分が無性に悲しかった。

 

喪服の躾糸を解く手を止めて、

千鶴子は八重の顔を見て言った。

 

「お母さん、告別式は

お母さんが作ってくれた

喪服を着るね。

襟に私の名前まで入れてくれたのね。

ありがとう、お母さん。

 

でもね、お母さん。

私は喪服よりも

お母さんにもっと可愛がって欲しかった。

お母さんの前で普通でいたかった。

いつも良い子でいるのは

とてもしんどかったよ。

最後に『ごめんね』って

言ってほしかった。

お母さんは良いお母さんだったけれど、

私はずっと寂しかったよ」

 

八重が千鶴子のために用意した

喪服に涙が滴り落ちた。

 

「お母さんは明後日には、

灰になってしまうのね。

その時、私のわだかまりも一緒に

灰にして持って行ってね。

良い思い出だけを私に残してね」

 

千鶴子は喪服を着て

八重の喪儀を滞りなく終えた。

 

千鶴子が演じた

最後の「良い子」だった。

 

・・・・・・・・<完>・・・・・・・・

 

村川久夢【母の日三部作】

*「なあお母ちゃん、花束が欲しいねん」

*「刺繍のブラウス」

*「喪服~お母さん、ずっといい子でいるのはしんどかったよ」

 

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*鬱・夫の死を克服した作家&

インナーチャイルドカードセラピスト

村川久夢(むらかわ くむ)

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