『どうしても受け流せなかった彼女の自慢話』

私は大学生の頃、

小さな英会話教室に参加していた。

大学で英文学を専攻していたけれど、

ListeningやSpeakingに自信がなく、

英会話は得意ではなかった。

むしろコンプレックスを感じていた。

 

クラスを指導して下さるソフィア先生は、

見るからに知的なイギリス人女性で、

物静かな人だった。

 

私はすぐにソフィア先生に

強い憧れを抱くようになった。

 

クラスの生徒は、

年齢も職業もバラバラだったが、

私とほぼ同年代の

リカちゃんと呼ばれていた女の子がいた。

 

リカちゃんは初対面の私に、

「あなた何歳?

どこの大学行ってるの?

バイトとかしてる?

彼氏いるの?」

とたて続けに尋ねて私を驚かせた。

 

そして私は、

全く関心のないリカちゃんの自慢話を

延々と聞くハメになった。

 

彼女は私と同じ年で、

有名な美大に通っていて、

コンテストで今まで何度も入賞し、

バイト先では有名人に気に入られていて、

イケメンでお金持ちの男の子にナンパされ

付き合っているらしい。

 

しばらくすると、

リカちゃんの自慢話を聞かされたのは、

私だけではないことがわかった。

彼女は同じ話を、人を変え、時を変え、

何度も繰り返しているようだった。

 

私は狡く、

表面はリカちゃんに調子を合わせていたが、

内心ではリカちゃんを嫌っていた。

 

そんなことがあったが、

ソフィア先生のクラスはとても楽しかった。

私は少しずつ英会話に対する

コンプレックスを解消することができた。

 

楽しかったので、

私はクラスを休んだことがなかった。

イギリス文学を専攻していたこともあって、

私は簡単なエッセイを書くようになった。

ソフィア先生は喜んで、

熱心に指導して下さった。

 

「真面目で頑張り屋だね、

英文エッセイを書くなんて」

と年配の男性生徒が私に言った。

 

するとすぐに

「あら!私は英文エッセイなんか

書けって言われたら、

とっくに教室を辞めていたわ!」

とリカちゃんが吐き捨てるように言った。

 

教室の雰囲気がいっぺんに悪くなった。

それでもソフィア先生は、

優しく微笑むだけで何も仰らなかった。

 

リカちゃんは、学業、作品制作、

アルバイト、彼氏との付き合いが、

とても忙しいようで、

英会話教室を休むことがよくあった。

英会話の進歩も捗々しくなかった。

 

でも、ソフィア先生は、

リカちゃんの展覧会の案内を

教室のみんなに手渡し、

彼女の活躍を伝えた。

彼女の才能を高く評価されていた。

 

教室の他の生徒は、

みんな出来た大人なのか、

リカちゃんが少々自慢話をしても、

微笑んで頷き、

「リカちゃんは、偉いね~」と誉めていた。

 

私は内心、強烈に不愉快だったが、

表面では優等生の笑顔を見せていた。

 

私が教室に通い始めて2年経った頃、

私はソフィア先生に突然呼び出された。

 

「リカちゃんが教室を辞めました。

あなたと喧嘩したそうですね、

何があったの?」

と尋ねられた。

 

「いいえ、何も心当たりは、ありません」
「そうですか、

リカちゃんは長く教室に通っているので

とても残念です」

とソフィア先生がとても悲しそうに仰った。

 

 

その後、私も就職し、

英会話教室から足が遠退いた。

 

 

ソフィア先生の教室に通っていたのは、

ずいぶん以前のことなのに、

リカちゃんのことを思い出すと

言いようのないこじれた

複雑な気持ちになった。

 

自己自慢の激しい人に、

今までに何度も会ったことがある。

いい気分ではないけれど、

適当に受け流している。

 

どうしてリカちゃんだけを

受け流せなかったのだろう?

 

今振り返ると、

私がリカちゃんを受け流せなかったのは、

ソフィア先生の存在が

深く関係しているとように思う。

 

私もリカちゃんのように、

ソフィア先生に認めてほしい、

評価して欲しい。

そんな思いを

私はストレートに表現できなかったのだろう。

 

教室の他の生徒さんのように

自分のやるべきことを地道にやっていれば

ソフィア先生の評価に

それほどこだわる必要もなかったはずだ。

 

今から思うと、

リカちゃんのあの激しい自己自慢も

なんらかのコンプレックスの

裏返しだったのかも知れない。

 

尊敬する人から評価されることは、

とても嬉しいことだけれど、

でも、自分で自分を

冷静に評価できることはもっと重要だ。

 

今もリカちゃんが、

自慢話をしているか知る由もないし、

知る気もない。

もう私とは何の関係もない人だ。

 

私は自分が信じた道を

粛々と進んで行くだけだから。

*鬱・夫の死を克服した作家&

インナーチャイルドカードセラピスト

村川久夢(むらかわ くむ)

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